それでも、あなたを愛してる。【終】
アイランド型のキッチンだから、あまり死角になる場所はないのに、その中でも上手く隠されていたその大量の白いボトル。
考えなくてもわかる。見たら、わかるよ。
(……全部、睡眠薬だ)
思わず手に取ると、殆どが残量が少ない。
全部種類は違くて、依月の手は震えた。
─これが、意味するのは。
「─依月?」
顔を上げると、契が心配するような顔で見てた。
傍にきて、依月の手元を見て。
「……ああ」
依月の手から、睡眠薬のボトルを奪い取る。
「悪い。出しっぱなしだった」
「っ、」
いつから、と、言葉が喉に詰まる。
─それを聞く権利が、私にあるのだろうか。
「気にしないでくれ」
そうあなたは笑うけど、あなたは昔から快眠できていた人のはずでしょう?
そんなあなたが睡眠薬を使うのは、もう只事ではなくなっている。
(……私が、いっぱい迷惑をかけたから?心配させちゃったから?だから、あなたは)
「依月」
(─違う)
名前を呼ばれて、その表情を見て、実感する。
胸が痛い。ズキズキ痛くて、涙が出てくる。
この人を、私はいったいどれだけ。
(私が、いなくなったから)
「……っ」
「依月、俺は大丈夫だから……」
「大丈夫なわけっ、ないでしょう!」
優しいあなたは、私に責任を求めないでしょう。
私はよく知ってる。だって、大好きな人だもの。
自惚れだと、笑われてもいい。
けど、確信してる。これは、間違いないって。
「どうしてっ、私を責めればいいのに!私のせいだって、私を詰ればいいのに!」
「……」
「自分勝手な私を、怒ればいいのにっ!」
─他の人と幸せになって欲しいとか、なって欲しくないとか、身勝手な心がどうとか、そんなこと、もうどうでもいい。どうでもいいよ。
「愛してるっていいながらっ、待っていてくれたあなたを捨てて、あなたの元を去ろうとする私をっ、貴方の時間を奪った私を、あなたは無理矢理にでも妻にすることは出来るはずでしょう!?」
自分で言うのもあれだか、依月が現在取り戻した能力は四季の家の中では、かなり価値がある。
だから、依月を従わせることが出来る人間は限られている。
でも、それはあくまで、分家の中だけ。
宗家たる契は、依月になんでも出来る。
それこそ、契約で縛り付けることも、閉じ込めることも、なんだって出来るはずなのに。