それでも、あなたを愛してる。【終】



「─んっ!?」

……表情を確認する暇もなく、呼吸を奪われた。
少し息が上がっていた依月は、呼吸を食べ尽くされていく感覚に、口の中を蹂躙される感覚に踠いた。

でも力が強くて、胸を押してもビクともしなくて。
膝から力が抜けていく、でも、解放されない。
頭にモヤがかかっていく。
……何も、考えられなくなっていく。

苦しさで出た、頬を伝う雫は顎まで伝い、契の指に落ちていく。

…………こんなキス、知らない。
いつも、優しくて。
少し苦しくても、こんなんじゃない。

(こんなの、知らな……)

─膝の力が抜け、背中に回った契の腕が依月の身体を支えた。膝も、腰も、まるで何かあったあとのようにヘロヘロで、依月は契にしがみついた。

それでもやまない蹂躙に、苦しくなってきた時。

「……何も知らなくていいよ」

解放と同時に、契が言った。

「このどす黒い感情も、独占欲も、依月は何にも知らなくていい。やっと自由になれたんだ。だから、自由に好きなように羽ばたいて、俺なんかの支配を受けずに、幸せになって欲しいって……俺はそう、願っているだけ。でも、依月はそれが不満なんだよね。─なんだっけ、妹みたい、だっけ。一体いつ、誰が、そんなことを言ったの?依月が思ったことなの?それは伝わってなかったって、理解していいの?依月の記憶の端に、俺が残ればいい……なんて思って、大人として振舞っていたのに、妹扱い、なんて、心外だよ」

─掴まれた腕が痛くて。
初めて見た、貴方の冷たい瞳は寂しさを孕んでた。

依月が手を伸ばすと、その手の甲を包み込むように、契の手が重なる。
逃げようと思えば、この状況から逃げれる。

でも、どうしてだろう。─逃げたくない。
知りたい。大人の振りをしない、あなたを。
依月は、それが見たい。

「…………契は、私にどうして欲しい?」

あなたに愛してると言いたくて、戻ってきた。
あなたの本音が、ただ、知りたくて。

「教えて……」

契の頬に触れ、包み込まれていた依月の手が、そのまま握られて。

指が絡んで、そちらに意識を取られる。そして。



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