それでも、あなたを愛してる。【終】

小さな未来の話

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「おいで、誉(ホマレ)」

目の前で、愛妻が幼子と遊んでいる。
愛妻が手を広げると、そこを目掛けて歩く息子。

ほんの少しの距離。でも、息子には大きな距離。

「……大っきくなったなぁ」

その様子を微笑ましく眺めていると、横のベンチに座っていた悠生が感慨深そうに笑った。

「依月もよく笑うようになって……ありがとな、契」

「何を今更……俺は何もしてない」

「何を言う。お前が頑張ったから、今があるんだ。謙遜するな」

「おじさんみたいになったね、悠生」

「実際、伯父さんだもん。な〜、葵咲(キサ)」

契が抱く赤子の頬をつつき、悠生は笑った。

「……ほんっと、可愛いなぁ」

「甥姪にめちゃくちゃ甘い伯父さんになりそう」

「ハハッ、確かに。何でも買いそう、俺」

葵咲はとても大人しい。
契が悠生に託しても、にこーっと笑うだけ。

「彩蝶、待ってるよ。悠生」

「……ん。分かってる」

「結婚、しないの。そういう方向性だったはずだけど」

「俺もそのつもりだよ。でも、俺の運命は狂ったまま、子どもも巻き込むんだ。だから、今、調律中というか」

「子どもを巻き込む?」

「そ。その道だけはどうしても嫌だけど、そうしなければ、彩蝶までも喪ってしまう未来が……ここ数年、頑張ってみたけど」

困った顔で笑う悠生もまた、一歩踏み出せないでいる。

「……だから、もう彩蝶に伝えようと思って。プロポーズの前に全部話して、楽になることにした。自分勝手だけどさ」

そう言いながら、葵咲の頭に触れ。

「未来で、俺の子供は君に守られるみたい。よろしくね、葵咲」

……また存在もしない、我が子の話。
その存在は未来で、既に生まれて数ヶ月の葵咲と同級生になる未来があるという。

「そして、誉のお嫁さんになる予定だ」

「……は?」

「その反応、分かる。でも、うちの娘、誉と結婚するらしい。つまり、未来の契の義娘」

「本気?」

「本気本気。可哀想だろ、俺。まだ見ぬ愛娘、あそこの可愛い子に攫われる未来が決まってんだ」

悠生は複雑そうだが、嬉しそうに依月に抱きつく誉はまだ1歳と少し……やっと歩けるようになったのに、そんな未来。


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