それでも、あなたを愛してる。【終】
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「─契、お待たせ」

夜。書斎で仕事を片していると、依月が入ってきた。それを確認し、契は眼鏡を外す。

「誉は寝た?」

「ええ。爆睡。お兄ちゃんといっぱい遊んでいたもの。疲れちゃったのよ」

依月がそう言いながら、机の目の前に置いている来客用のソファーに座ったので、

「依月」

契は外した眼鏡を机に置いて、彼女を手招きした。
彼女は目を瞬かせると、微笑んで、契の元へ来る。

そんな彼女をそのまま、自分の足の上に抱き上げて座らせると、契は依月を腰に両手を回し、依月の肩に顔を埋めた。

依月はくすぐったそうに笑いながらも、離れず、抱き締め返してくれる。

その時間が、契にとっての癒しの時間。
毎晩、余程のことがない限り、この時間を設けている。

「─そういや、契。今日、お兄ちゃんと何を話していたの?」

「ん〜? 」

情報共有も大事だ。そう思い、契は昼間のことを依月に話した。

「そんな未来が……」

「難しいんだと。未来を変えるのが」

「お兄ちゃんが彩蝶と結婚すればいいだけじゃ……?」

「なんか、そういう問題だけじゃないらしいよ。最近は春の家が─千景達がバタバタし始めて、悠生も悩んでた。今のタイミングの引退が、未来に響くかもって」

「でも、結婚したからって、調律者引退しなくちゃいけない訳じゃなくない?そりゃ前ほど危険な真似はしないで欲しいけど……」

「そこら辺の因果はよく分からないけど、彩蝶と結婚するということは、四季の家に身を捧げるということだ。時の巡りに身を落とせば、どれだけかかるか分からない中、彩蝶を妻にする自分を認められないと」

契の言葉に、依月は俯いて。

「それなら、正しく帰って来れる導きが必要ってことになるわよね」

「導き?」

「ええ。─こっちだよ、って、呼ぶ係?っていえば良いかしら。私の場合は、両親だった」

懐かしむ依月。その横顔はどこか、寂しそうで。

「─明日、お兄ちゃんに連絡してみる。このまま、お兄ちゃんと彩蝶が平行線で居続けるのも、未来に響くと思うから」

ちゃんと乗り越えて、ここにいてくれる最愛。

「ん。何かやることあったら、必ず言ってな」

「フフッ、うん。ありがとう」

─夫婦の時間。
熱を分け合い、互いを認め合う時間。

「今日も愛してるよ、依月」

「私も、契を愛してる」


─そして、時はまた巡り続ける。
多くの幸せと哀しみを渦巻きながら。

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