それでも、あなたを愛してる。【終】
第一章☪ 消えた婚約者
「ふざけやがって...っ!!!!」
大きな音を立てて、家財が壊れていく。
「あーあ......荒れてら」
15歳、高校入学したての、秋の宗家【桔梗】当主の桔梗凛(キキョウ リン)と、
18歳、高校3年進級したての、春の宗家【橘】次期当主の橘千景(タチバナ チカゲ)はふたりで顔を見合せ、呆れたように笑い合う。
暴れているのは、夏の宗家【朱雀宮】の次期当主である朱雀宮契(スザクミヤ ケイ)。
彼の家である、とあるマンションの一室。
広い部屋に綺麗に配置されていたテレビや観葉植物をはじめとして、本なども全部、床に叩きつけられ、カーテンなどもビリビリという惨状。
ソファーを安全地帯として座るふたりは、怒り狂う幼なじみを目の前に何も出来ないでいた。
「─ねぇ、千景」
「うん?」
「どこ行ったと思う?依月」
「うーん......」
契の大切な婚約者・氷見依月が消えて、約1ヶ月。
「まさか、こんな終わり方があるとはね」
依月は冬の分家出身で、家では大切にされていなかったことは知っていた。
でもまさか、違う娘を契に宛てがうとは思わないだろう。
「紫苑にどうにかしてもらおうにも、紫苑はいない。痛いな、どれかひとつ欠けるだけでも」
冬の分家の管理者は勿論、冬の宗家・柊家。
冬の家は少し前に、三つある分家のひとつが一家惨殺されたり、離脱したりと、問題が続き、不安定だった。
現在はふたつの家が分家として追加されて久しく、落ち着きを見せていたが......。
「身の程知らずに、氷見がそんなことをするとはな」
分家の役割は宗家を支え、仕えること。
宗家の意志を至高とし、彼等の望み全てに応えることで、分家は宗家からの寵愛を受けている。
それが、長い長い歴史の中で変わらなかったしきたりのようなものであり、分家が宗家に意見をするなど、基本的にあってはならなかった。
時折、宗家の横暴さなどを諌めるために、同じ季節の分家のものが宗家に意見する話などを聞いたことがあるが、他家は論外。
しかも、今回、夏の宗家・朱雀宮には何の失態もなく、唐突に、宗家である契が望んだ依月を取り上げ、冬の分家・氷見の分際で、違う娘を宛がった。