それでも、あなたを愛してる。【終】
「本当の娘とか、意味わかんない」
ため息混じりに、凛は立ち上がると、契が投げた本を手に取った。
「ねぇ、契。暴れてもどうしようもないんだから。1回、四ノ宮行こうよ」
「......行ったところで、何になるんだよ」
「真髄まで腐った家だけど、当主夫妻が亡くなってから、腐敗臭すら感じるほどの腐り具合だけど。でも、僕らの家の中心だ」
「......」
「そうやって暴れて、物壊して、契の気持ちが晴れるならそれでいいけど。そうじゃないでしょ。大体、片付ける人の気持ちになりなよ」
決して片付けないだろう凛が言うには不釣り合いだろ、と思いながら、千景は四ノ宮の家の崩壊具合を思い出す。
(凛の言う通り、人間は本当に救いようがないが、空気は─......)
凛はボロクソに言っているが、本当にそのレベルの話だった。
何なら、四ノ宮の亡き当主夫妻の死は突然で、ずっと当主の座を狙っていた当主の弟がなにかしたのではないかと言われてる腐敗っぷり。
あの家が不安定である限り、こちらとしても、もしもの事があった時に頼り先がなくて困る─……ああ、それなら。
「契、凛、四ノ宮じゃなくて、“始まりの地”へ行かないか。あの街になら、何かあるかも」
「“始まり”って……刻神様の?」
「ああ」
四ノ宮を中心に、春夏秋冬で表される四家。
四ノ宮を寵愛する神・刻神様の、四人の子。
その子らが、我ら四家の祖であるとされている。
「この間の正月での催し、覚えているか」
「ああ……あの、特に何の祝福も見られなかったシケたやつでしょ」
「あの対応に、四ノ宮は追われてたよな。昨年までは目を見開くほどの祝福が与えられていたというのに」
契は鼻で笑ったが、それはつまり、四ノ宮に神がいないことを示す。
それは、四ノ宮が我々の代表であるためには、致命的な欠点であり、大問題だった。