それでも、あなたを愛してる。【終】
「─ごめんね。契くん」
百合さんは申し訳なさそうに、契の手に触れる。
「……依月は無事なんですよね」
「ええ、それは嘘じゃないわ」
無事なら、それでいいなんて言えない。
だって今、あいつはここにいないのだから。
「どこにいるのかは分からないのに、無事だとわかるのは……それが何故なのかは、お伺いしても?」
「勿論よ」
百合さんが冬仁郎さんの方を見ると、冬仁郎さんは小さく頷いて、1枚の紙を差し出してきた。
「─先程、客人を迎えていたと話しただろう?」
「ええ」
「凛くんはよく知っている。客人というのは、“管理者”だったんだ。その“管理者”が、依月をしばらく預かるという。理由は今は判断しかねるから言えないが、必ず、朱雀宮契の……君のもとへ返す。返す為に、頑張ると。─君がここに来ることを見越して、現れ、そう言い残して、また消えた」
「……凛を、救い出した方ですか」
「そうだよ。そして、凛に降りかかる代償の処理をした方だ。だからこそ、凛くん。君の気持ちはわかるけど、君が代償を受けるから、なんて、言ってはならない。気持ちは分かる。気持ちはわかるよ。けど......“管理者”も、ある目的のために、あそこにいるのだから」
「...............すみません、」
凛の言う通り、引き裂かれるような感覚は今も消えず、苦しくて、苦しくて仕方がなくて、今にも、凛の提案に乗って飛び込んでしまいたい。
彼女がいない世界なら、契にとっては無意味で、何もかもが灰色になるくらいに彼女は大きな存在で、だから、だから。
「……わかりました」
ああ、でも、きっと、今、契が選ぶべき道はそれじゃないのだ。
“管理者”がわざわざ出てくるくらいなのだから。
「凛、ありがとう」
「契......」
「返してくれるというなら、そのために頑張るという意味はよく分からないけど、それでも、いつか、何年後でも、依月が帰ってくるのなら。こんなところで腐ってはられないよな」
落ち込む凛の頭を撫でながら、心配そうな顔をしている千景に微笑みかけると、千景が小さな声で。
「いちばんの、味方でいられなくて......ごめんな、契......」
優しい、優しい、同じ運命を背負う幼なじみ。
「……ばーか」
契は思わず、笑ってしまった。
こいつらとはきっと、死ぬまで一緒だ。
手を取りあって、家をどうにかしなくちゃならない仲間であり、同じ痛みを分かち合える相手。
「お前たちがいるし、もう少し頑張るよ」
依月がいない世界でも、生きる道を。
じゃないと、あいつは自分を責めて、苦しんでしまうだろうから。
俺が愛した人は、そういう人だ。