それでも、あなたを愛してる。【終】
大人しく姿を現し、頭を下げると。
「これはこれは、朱雀宮の」
“管理者”は契を見て、にこやかに微笑んだ。
一方、彩蝶さんは契を一瞥し、“管理者”を見る。
“管理者”はそんな彩蝶さんの視線は無視。人当たり良さそうな笑顔を浮かべ、彩蝶さんは「皇」と不機嫌そうに、彼の名前を呼ぶ。
「なあに」
「あんたとは1度、腹割って話したかったのよ。何を隠してるの。何をしたくて、あんたは時巡りしてるの。大体、あんたの立場は?四ノ宮の人間じゃないでしょう?私の両親は雪城のふたり。本当の両親なんてどうでも良いのに、急に現れて、そんなことを私に教えて、どうしたいの?私からしたら、四ノ宮は憎むべき存在でしかないのよ!!!」
「……そうだね。僕もわざわざ君に会いに来る必要はないって分かってるんだけど。なんでかな。ああ、理解して欲しいのかも。僕も大嫌いだから」
「だからっ、それが透けて見えるのに、四ノ宮の未来のためだとかなんだとか言うから、腹が立つのよ!はっきり言いなさいよ!」
「こらこら。そんな大声を淑女が出すものじゃないよ」
「〜っ、そこのあんた!」
……よっぽど、腹が立っているんだろう。
契はただ眺めていただけだったのに、急にスポットライトを当てられ、咄嗟に「はい」と返事してしまった。
「時間は?」
「あ、連れがいますが、連絡すれば……俺は、貴女と話したくて来たので」
「私と?何で?あ、もしかして、あんたも四ノ宮の当主になれとか言うの?」
「いや、そんなことではなくて。ただ、貴女を知ろうと思ったんです。聞いてますよね。四ノ宮本家の正月と、こちらの正月に起こった現象の違い。貴女と新しい年を迎えられる喜びを、神々はきっと喜んでいた。だから、貴女を知りたくて」
「……あんた、神を信じているの?」
彼女は呆れた目で、契を見る。
契が神様を信じていることを馬鹿にしているのは、ひと目でわかった。
分かったからとて、腹は立たないけれど。
─契は苦笑しながら、二人を見て、目を伏せた。
「信じているか信じていないかと問われれば、立場的に信じざる得ないと申しましょうか。─お話しましょう。“管理者”様。そして、神々に選ばれてしまった次代の主よ」
契の格式に沿った言葉に、“管理者”は軽く頭を下げ、
「僕はそのように扱われる身ではありません。どうぞ、皇、とお呼びください」
と、微笑んだ。
一方、彩蝶さんはため息混じりに、そっぽむく。
「そういう、堅苦しいのは嫌い」
「そうですか」
「あんた……貴方の方が、歳上でしょ。名前は」
「朱雀宮契と申します」
「そう……朱雀宮さん、八つ当たりのような、失礼な態度をとって、ごめんなさい」
彩蝶さんはそう言いながら、契に向かって、深く頭を下げてきた。
意志の強い猫目も見えなくなって、短い髪が風に揺れる。細いこの肩に、四季の家の全てがのしかかっていると思うと、契はなんとも言えない感情が胸に広がった。
「……謝られるようなことでは」
何とか絞り出した言葉だった。
彼女の態度について、何も気にしていないのは本心だった。
しかし、彼女は。
「何言ってるの?そうやって、四ノ宮は偉い、神々に選ばれた四ノ宮は何をしても許される、みたいな、そういう風潮が大前提として大嫌いなの。別に、あの件に関しては、四ノ宮全部や四季の家が悪いとは思っていないし……私が何者であったとしても、私が私の無礼を見過ごすことは出来ない」
その姿は真っ直ぐで、だからこそ。