それでも、あなたを愛してる。【終】
「大丈夫だよ」
夜蝶ちゃんの頭をそっと撫でて、契は冬仁郎さん達を振り返った。
「俺、少し話してきますね。彩蝶さんと」
「興味があるか、彩蝶に」
「ええ。俺達から逃げ出すなんて人、初めてなので。凛や千景よりも長く生きている俺が適任でしょう。話してきますよ。恐らく彼女が、次代の四ノ宮当主なのでしょうし」
「─どうしてそう思う?」
「嫌だな、冬仁郎さん」
契は苦しくて、仕方なくて、確かにここに来た。
暴れまくった契を案じた、千景の案だった。
─複数ある、四季の家の、創まりの、物語。
どれを信じるのかは自由であり、どこへ消えるのも、この家の中では“一部のものは自由である”。
「舐めないで下さい、これでも朱雀宮ですよ」
契は目を細め、口角はしっかりあげて微笑んだ。
冬仁郎さんはその契の言葉に微笑むと、「なるほど」と呟き、
「“管理者”と話をするのか」
「ええ、当たり前でしょう?俺は朱雀宮であり、依月の恋人だ。あいつに関することは、きちんと聞いておかなければ」
「そうか...じゃあ、千景くんや凛くんは、年寄りの話に付き合っておくれ。夜蝶も、そばにおいで」
深くを語らずとも、ある程度察してくれたらしい冬仁郎さんは微笑みながら、契に手を振る。
部屋を出て、玄関から外に出ると、庭の方面から話し声が聞こえてきた。
─なにか揉めているみたいだ。
契は足音を殺しながら、そっと近づいてみた。
人様の話を盗聴するなんて行儀が悪い話だが─......。
「四季の家とかっ、知ったことじゃないわ!!!」
......タイミングが悪すぎたかもしれない。
そもそも、四季の家の後継者になりそうな人間がこんな場所で生活することを許されているはずがないのに、許されている時点で、何かしらの事情があることは予想できたはずなのに。
「私が当主?本当の娘だから?─いい加減にしてよ!毎回、毎回!私が四ノ宮家の当主になるなんて、誰も認めないだろうし、誰が為に─......」
「─ああ、そうだね。これは僕の御話だった」
「皇(コウ)!」
「許して、彩蝶。わざとじゃないよ。わざとじゃ……長旅すぎて、頭が混乱してたみたいだ」
「だからっ、あんたが……っ、、、誰?」
勢いに任せて、また声を上げようとした彩蝶さんが、契の存在に気づいたのか、契がいる方向を睨みつけている。
流石に建物の影から見るのは、限界だったようだ。