それでも、あなたを愛してる。【終】
「─君がそんなんだから、僕は君を四ノ宮次期当主に選んだし、神も君を指名したんだよ」
……契が心の中で何となく思ったことを、ため息混じりに吐き出した皇。
「君は、人の上に立つ。─神は、君にそれが出来ると言った。君もよく知る人物だ」
皇はそう言いながら、スマホを手に取ると。
「─彩蝶。夜蝶に連絡して」
「なんで」
「もう、君は引けない段階まで来てるんだ。─君に酷なことを言ってるのはわかっているけれど」
皇はそう言って、視線を落とす。
それを見て、彩蝶は深いため息をつくと。
「─だったら、誓いなさい。二度と、私のいない所で私のことを決めないって」
「彩蝶……」
「いろはさんのこともあるしね」
“いろは”─その名前が出た瞬間、目に見えて分かるくらいに動揺を見せた皇は
「……生きているの?」
と、震えた声で問う。
すると、彩蝶さんはため息をついて。
「あったりまえでしょ。誰が守っていると思ってるの。貴方の言葉を借りるなら、『神の愛し子』よ。私」
─その瞬間、皇は走り出した。
どこかを目指す勢いで、真っ直ぐに。
「待っ……」
「止めなくていいです、朱雀宮さん」
彩蝶さんはそう言うと、どこかに電話をかける。
「─もしもし?うん、そっちに行った。会わせていいよ。うん、大丈夫。大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。とりあえず、朱雀宮さんと向かうから……うん、うん。わかった。後でね。…………これで良し。じゃあ、話が出来る場所、皇が向かった場所に行きましょうか」
彼女は身体を伸ばしながら、契を振り返る。
その笑顔はどこか心細そうで、
「彩蝶さん。俺のことは契、と、お呼びください」
「ええ?でも、あなたは年上でしょうに」
年頃らしくない。
─四季の家に関する立場に生まれてしまえば、仕方がないことだと割り切らなければならないかもしれないが。
そんなのは悲しい。
その人の価値は、そんなもので決まらないのに。
『契なら、出来るよ。契は契だもん。私が好きになった契は、朱雀宮さんじゃないよ』
(─そうだよな、依月)
俺は本当に心から依月がいれば、それだけで良かった。それ以外要らなかった。けど。
「そうですね。─でも、そんなことは関係ありません。ただひとりの人間として、貴女とは友人になれたら」
依月は契が落ちぶれていくことを望まない。
あいつが頑張るならば、契がすることもひとつ。
「……変な人ねぇ」
彩蝶は笑った。笑って、ゆっくりと歩きながら。
「─多分、私は四ノ宮の当主となるわ。皇の言う通り、これは避けられないのだと思う。私はあなたに話さなくちゃならないことは沢山あって、聞いて欲しいことも沢山あって。そうね。願わくば、私もあなた─契や、他のふたりとも友達になりたいな」
「是非。友達になりましょう。じゃなければ、やっていけないです。いっぱい甘えてくださいね。甘やかすのは得意なので」
「え、そうなの?あなた、最愛の恋人はいても、一人っ子って聞いたけど?」
「……手のかかる幼なじみが、それなりにいましたので」
契の言葉に、彩蝶は笑う。
くすくすと楽しそうに笑いながら、
空を見上げて、遠いどこかを見つめているような横顔はそれでもやっぱり、悲しげだった。