それでも、あなたを愛してる。【終】
…………うん。そう、私は愛されていた。
自覚すれば、認めてしまえば、
戻れなくなることも理解していた。
でも、愛されれば愛されるほど、愛しくて。
彼の、くしゃりと崩れた笑みが大好きだった。
朝起きた時の、優しい目も。
手を伸ばしたら、抱き締めてくれて。
笑えなくても、泣けなくても、上手く言葉に出来なくても、ずっとそばに居てくれる彼が好きで。
愛してた。……ううん、今でも愛してる。
─パキッ
聞こえてくるのは、何かが割れる音。
─バキバキバキッッ
その音は次第に大きくなっていき、依月の鼓膜を震わせる。
「契……」
名前を呟いたら、涙が溢れた。
真っ白の空間のなか、どれだけ叫んでも届かない。
「寂しい……」
両手で顔を覆って、声を押し殺す。
どこにも届かないなら、声を出すだけ無駄だから。
自分を中心に、世界が凍る。
「……依月」
後ろから頭を撫でられ、依月は声を震わせた。
「助けて……助けて、刹那(セツナ)……」
真実なんて、見なければよかった。
見なければ、何も知らずに死ねたのに。
知らなくて良かった。
自分が氷見の娘じゃないことを自覚しないで、
あのまま、捨てられた場所で死ねれば。
『依月』
(……ああ、でもダメだ。彼に言わなくちゃならないことがまだあって、それを伝えるまでは死ねない。死にたくない。もう一度だけ、)
「会いたい」
口にした瞬間、また世界を凍らせる自分は化け物なのだろうか。
刹那は【冬の宮】として生まれてしまったからだと言うけれど、そんなこと聞いたことがない。