それでも、あなたを愛してる。【終】
「……苦しいね、きついね。ごめんね」
頭を撫でられながら、呼吸を整える。
この世界には朝や夜の概念がなくて、眠くもならないから、正直、ここに来て何日くらい経ったのか、依月は把握していなかった。
「……権力争いはね、仕方ない」
流れ出る涙を止める方法もないまま、依月は言葉を紡いだ。
「大きくて、歴史が長い家だもの。仕方がないわ。四季の家の始まりから見て、理解できないことばかりだったけど……でも、始祖が創り、愛した彼女は幸せだったのだと思う。始祖には絶望しか残らなくても、最後まで、始祖に彼女は愛されて幸せだった。だから、始祖が認めた人間が、四季の家を作ったことも理解したわ。ふたりの愛し子だった人間が、人間じゃない能力を持って、それが時の権力者に認められて……うん、そうやってこの家は大きくなってきたんでしょう。それも理解した。でも、【お役目】が出来てからおかしくなっていった」
情報を整理するように。
頭に温もりを感じながら、依月は口を動かす。
「長く続いた家の中で【特別な能力を持った子】を生贄にする?生贄にしなければ、家が終わるから?それを求めているのが、神である始祖?─違う。私が見た歴史は、違う。始祖はただ、再び最愛が蘇る血筋を絶やしたくなかっただけ」
「……」
「じゃあ、生贄として沈められた、殺された、捧げられた彼らはどうなるの?彼らの苦痛は、思いは、彼らを愛していた神々は」
─バキバキバキバキッッ
依月の心に呼応するように、どんどん寒くなっていく。
何も無い真っ白な空間は氷漬けになっていき、依月は止まらぬ涙が冷えきっていくことを感じた。