それでも、あなたを愛してる。【終】

麗しき蝶




「─冷たい家」

彩蝶はひとり、呟いた。

大きな屋敷。多くの人々。
こちらを見て囁く姿は不愉快で。

(こんな人達に、彼は殺されたのね)

足を進める度、重さが増していく。
これから、彩蝶が背負うもの。
彼が殺されたであろうこの土地で、
彩蝶が守らなければならないものたち。

これから続く長すぎる人生すべてを、
この家に捧げるつもりはないけれど。

あったかい家で、沢山愛されて育った彩蝶にはしんどくて、辛くて、仕方がない。

(一生、結婚するつもりがないと言ったら、驚いてたな……私の恋人を殺したくせに)

雪城彩蝶は、四ノ宮彩蝶となった。

勘づいていたけど、やはり自分は両親の子供ではなく、四季の家の頂点たる四ノ宮の子供だった。

皇に求められ、彩蝶が覚悟を決めて、真実を求めて漸く、両親─育ての親は口を開き、優しくて穏やかな父は笑いながら、

『それでも、お前は私の娘だ。頑張りすぎないで、いつでも帰ってきなさいね』

と、言った。

四季の家の始祖たる人物を祀るとされる神社の神主を務めている父は、血縁的には彩蝶の遠い親戚にあたるという。

また、彩蝶の異母妹の母親は、実の妹という。
なんという因果。
顔も知らない両親は愛し合って結婚したわけではなかったらしい。

正直、どうでも良かったが、父の話によると、街中で妻子ある身でありながら、父の妹に一目惚れしたらしい。

既にその女性は亡くなっているが、巡り巡って、その際の彩蝶の実母のとある行動が、今も皇を苦しめているという話だから、その話は是非、お酒を飲めるようになってから、と、約束して、父とは別れた。

一方、母は彩蝶の叔母。
皇もまた、母の兄の息子で、従兄弟だった。

話はかなり複雑で、半分以上、感覚的に理解しているものばかりだが、まぁ、この家でやっていくためには知識よりも、忍耐な気がしている。

契たちを守るためと思えば、頑張るしかないと思うこの気持ちを忘れず、踏ん張って、いつか、皇にでも、当主の座は叩きつけてやる。


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