それでも、あなたを愛してる。【終】


「言葉を変えるね。...この一家ってさ、多分、氷室家を滅ぼした一家だと思うの。ユエが話した事が嘘でも誤魔化しでもないのなら」

「氷室...?」

「うん。知らない?依月、氷室の娘だよ」

ここに来て、また知らない情報に愕然とする。
契が黙り込むと、

「......今から、約20年前の話」

と、夜霧が呟いた。

「これらの話は、歴史書に記すことが出来ない。下手人が契約を結んだあとに、明らかになった事件だから」

“契約”ーそれは、四季の家に生まれてしまった人間は逃れられないもの。
それを結んだ上で明らかとなった事件は、確実に多くの人の善意を狂わせた。

「氷見が氷室を消した理由は、分家の座を欲したから。─しょうもない理由だったけど、それだけで氷室の当主夫妻と先代は殺されてしまった。
そして、夫妻の長男は瀕死となり、長女は行方不明に。

数年後、子息女お披露目パーティーで、氷見依月として現れた彼女は、冬の加護を背負っていた。力無いものには分からないから、あいつらは予測しなかったのだろう。

しかし、そのパーティーで、自分達が氷室を滅ぼしたのだと決定づけるようなお披露目をした。氷見にそれだけの加護を持つ子供が生まれるはずもなく、また、依月には氷室当主夫妻と同じような能力の気配がしたからね。気配までいくと、もう、俺たちのような人ならざるものにしかわからないけど。

あのパーティーでの依月には笑顔がなく、どんな育てられ方をしているのかも明白で、四季の宗家面々は憤った。でも、契約がある以上、何も出来ない。そこで、契、お前がタイミング良く、両親に願ったんだ」

夜霧からの言葉で、思い出すのは初対面の日。

自分は依月に一目惚れして、どうしても一緒にいたくて、両親に“お願い”をした。

「─うだるような夏は、静かな冬に焦がれるものだ。能力が強く、コントロールに苦戦していたお前にとって、依月の存在は安定剤となった」

「......つまり?」

「彼女の存在がお前にとってなくてはならぬ存在で、お前を抑制していたように。お前の存在もまた、依月の能力をコントロールしていた。抑えていたんだ。だから、お前がいなくなって、今回の事件が起こっている」

............依月が欲しくて、欲しくて、仕方がなかった。それも全て、本能によるものだというのだろうか。

じゃあ、この執着も?ああ、否定したくても否定できない。

あの日、無表情でそこに立つ彼女に惹かれ、声を掛けた。

彼女は表情を変えることが出来ない、だから、両親は自分を殴るのだといい、泣いていた。

それを見て、耐え難い気持ちになって─......。

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