それでも、あなたを愛してる。【終】
「ユエやティエ、朝霧や夜霧が話すように、彼らにはあの空間に踏み込むことは難しいと思います。それは説明通り、彼らが【中途半端な存在】だから。人間と神様、どちらにでも引っ張られる可能性がある彼らを招き入れることは、自身の存在を危ぶませるので、彼は招き入れることはありません」
「その彼というのは...?」
「彼の名前は知りません。ですが、彼は“運命の調律者”と呼ばれています。この世界を見守り、この世界の歪んだ運命を何度繰り返そうと、正しく導く役目を持つと話していました。それが、自身への罰なのだと」
「待って、それ、俺知らない」
皇の語る内容に、顔色を変えたのはユエだった。
「“運命の調律者”なら、“時の管理者”だった皇と同じように、“刻神様”と呼ばれる俺の眷属にあたる存在のはずだ。だって、ティエ─アマネだって、四季の家だって、俺が創ったんだよ」
「でも、調律者は、“創っただけ”と言っていましたよ。後始末を自分にさせて、本当に身勝手な神様だって。創世神として、責任もって欲しいと」
「……後始末」
皇から伝えられる、調律者の言葉にユエは首を傾げた。
「後始末って......何かあったか?」
「うん、そこからですよね。調律者も言ってました。調律者は何も無い空間で、俺たちと同じような姿で、『ユエたちが幸せになれる世界になったら、起こしてあげなきゃね』って」
「...神の生死までも、操るのか。調律者は」
夜霧の顔色が変わる。けど、皇は首を傾げた。
「どうなんでしょう。俺もよく分かりません。調律者は『俺を理解しようとしないで』と言ってましたし...でも、こうして、ユエと関係を持った今なら分かります。調律者の言葉の意味」
「なに?何を言われたの」
後始末、という言葉がしっくり来なかったらしいユエは興味津々に、皇の言葉を待った。
「……『最愛の人を守るために、ユエは世界を変えた。“終わらせたくなくて”、これ以上、ティエという存在を壊さないために』」
皇は再現するように、言葉をゆっくり紡いだ。
「『ユエは、自分の最期を覚えているのかな。寂しがり屋の神様だったユエが創り出したティエは、綺麗なものを与えられて、綺麗なもので育ったけど、ユエが知らない“愛”は知らないままだった』」
言葉ひとつひとつ、紡がれる度に、ユエの瞳が揺れる。
「『ティエを創り出すまでのユエは、本当にただ寂しかったんだ。だから、世界の理を作り出した。光と闇を、天地を、朝と夜を、四季を……繰り返していく中で、自然と人間が生まれた。それを眺めながら、寂しさを紛らわせていたユエを見つけた人々は、全知の神たるユエを化け物と呼び、災いにも幸福にもなりうると遠ざけた。寂しかったユエには何も残らなかった。だから、ティエは創られた』」
まるで、過去をひとつひとつ思い出すかのように。
「『でも、ティエは人間じゃなかった。欲というものすべてが欠如していて、それでも、ユエはティエが可愛かったんだろう。何もかも与えて、次第に、ユエは愛を知ってしまった』」
ユエの瞳が揺れて、その背中にティエがくっつく。