それでも、あなたを愛してる。【終】
「─凛、やっぱりお前のせいじゃないよ」
契がそう笑いかけると、凛の瞳が潤んだ。
「お前のせいじゃないから、気に病むなよ」
頭を撫でてやると、小さく頷く凛。
「─じゃ、とりあえず、調律者の空間に繋がる場所を泉以外から探すってことでいいの?契」
泣いているのか抱きついてきた凛を抱き締めていると、彩蝶がそう聞いてくる。
「うん。招かれるのを待つよりは」
「ちょっ、見つけても、無理やり入らないでよ?普通に命の危険があるんだから」
「分かってるよ。ちゃんと呼ぶさ」
「うわっ、胡散臭い。私、この一年半で学んだからね。契のその顔は、大抵、嘘ついてる時だ」
「そうなの?」
「そうだよ。いろは。覚えておきなね」
「ちょっとちょっと、妹さんに変なことを教えるの、やめて貰える?別に、嘘はついてないよ」
「じゃあ、その顔は何さ」
「え、いや、考えることややることが結構見えてきたなー…って思いと、いろはさんと飛び込んだ美言さんの行方、泉の中で出会ったという調律者以外の人の正体とか...ユエさんやティエさんは、これからどうするんですか?」
「や……そりゃあもう、夜霧達と調律者の空間を探すさ。記憶を無理やりこじ開けるような術を、皇の声に仕込んでまで、伝えてきたんだ。その執念に応えて、向こう側の要求を聞かねぇと」
「後始末させてるみたいだしね」
ユエの言葉に、悪意ないティエの言葉が刺さる。
「頑張ろうね、ユエ」
それでもほわほわ笑う彼女を見て、優しい笑みを浮かべるユエは多分、もう“間違えない”。
「朝霧と夜霧、協力を頼んでも……?」
「もちろん。お任せ下さい」
「いいよ。やることもねぇし」
「助かる」
まさか生きているうちに、こんなにも人ならざるものと付き合うことになるとは思っていなかったが、依月を取り戻す為ならば、神ですら利用する気だったので、本当にちょうど良かった。
「じゃあ、私は当主としてやることをやりながら、泉の有効活用方法を探そうかな」
「有効活用って……誤って、落ちないでくれよ」
「落ちるのも楽しそうだけど、今、私が居なくなったら、皇が胃痛で死んじゃうから、流石にやらないよ。いろはが落ち着いて、皇との生活に安定を見出したら、当主の座は譲り渡したい所存だけど」
「え、それはどっちに」
「別にどっちでも。だって私、両親が四の宮の四ノ宮と、司る宮の司宮だよ?どっちに譲っても責められる云われなんてないし。大体、四の宮のいろはと、司る宮の皇が愛し合ってるなんて、よもや、家を合わせる良い機会でしょ。いろはの話から取るなら、これ以上、美言さんみたいな悲劇は起こすわけにはいかない。私にはその歴史を繰り返さない責任があるわけで、その為なら、神でもなんでも利用する。その為に、私はここに呼び戻されたようなものなんだから」
彩蝶に言われて、そういえば、と、思う。
確かに、四ノ宮当主の娘であり、彩蝶の異母妹のいろはと、司宮の当主子息である皇が結婚するなら、それはもう形の綺麗な大団円だろう。
「─じゃ、じゃあ、どうなっても良いように、私はお勉強を頑張るね!」
「うん!─皇、いろはを頼むよ」
「ああ」
いろはの決意をニコニコと聞いた彩蝶は、身体を伸ばしながら。
「─とりあえず、さっき捕まえた馬鹿共をシバいてこよ」
と言い、部屋を出てたことで、その日の会合?集まり─真面目な話し合いの場─は終わった。