それでも、あなたを愛してる。【終】
兄の役目
「─うーん、彩蝶らしいなぁ」
桶に溜まった水が揺れる。
水面に映るのは、四ノ宮家の現当主。
「刹那、何見てるの?」
「あ、美言も見る?美幸(ミユキ)もおいで」
ハーフアップのお団子をした青年は、小さい男の子も手招いて、自分自身の膝の上に座らせる。
「あら、いろはがいるわ」
「うん。ちゃんと帰したもん」
「ありがと〜!気掛かりだったのよ。……美幸、この女の人がね、美幸を助けてくれたのよ」
「そうなの?」
「ええ、とっても素敵な子だったの」
嬉しそうな母親の笑顔に、ニコニコ笑う美幸。
本当、良い子に育ったものだ。まぁ─……。
「─あ、お父さん!」
「良い子にしてたか、美幸」
「うん!」
「おかえりなさい、綴(ツヅリ)」
「ただいま、美言」
このふたりの子どもなんだから、そりゃあそうなんだけど。
「えへへ」
─うん、いつも通りの光景。
ごく自然にキスを交わす2人は、そのまま、美幸の頬にキスをした。
「今日も仲良しだね」
「良い事だ」
そう言いながら現れたのは、光を司る神─ステラと、闇を司る神─ルナだった。
(この名前は、美言が命名した)
「スーちゃん!ルーちゃん!」
「おはよう、美幸」
「おはよう。今日も元気だな」
(─朝とか夜とかの概念はないはずなんだけど、今、神様基準だと、おはようなんだ...まぁ、どうでも良いんだけど)
「スーちゃん、ルーちゃん、あのね、今ね、セッちゃんがね、」
「うん」
「水?お水の向こうを、見てるの」
「そうか」
美幸を抱き上げながら、小さな笑みを浮かべるルナは美幸を抱っこしたまま、刹那の手元を覗きに来た。
「─おや。朝霧と夜霧もいるね」
「君達の愛し子...あ、子どもに近いかな?」
「うん、子どもに近いかもね。力を与えて、僕達はこちら側に引っ込んだから」
─朝霧と夜霧は、【半端者】。
中途半端に、神様の祝福を受けた元人間だから。
「あ、ユエもいる」
「起こしたからね」
「え、刹那が?」
「うん。んで、皇に散々嫌味を言わせたところ〜術も仕込んでいたから、多分、9割くらいは現役の頃のこと、思い出してるんじゃない?」
「えげつないことするな……」
「え、そう?─だって、俺は優しくないもん♪」
にっこり笑って、青年─刹那は通信を切る。
「─さて、朱雀宮の当主さんが中々に強そうだ」
立ち上がって身体を解し始めると、
「え、人間相手に喧嘩する気?やめときなよ」
と、ステラに言われた。
「いやいやいや」
忘れ去られがちだが、刹那は見過ごせない。
「言っとくけど、俺も人間だからね?」
ちゃんと、強調して言っておく。
「……因みに、どの辺が?」
すると、「まじかこいつ」みたいな顔で、綴に見られたので、刹那は胸を張って説明した。