それでも、あなたを愛してる。【終】
「これ、依月の宝物だよね。大事だね」
涙を拭うことは、もうやめた。
好きなだけ泣いて、好きなだけ眠って。
心が安定すれば、能力も安定する。
互いが全てであることを悪いとは言わないけど、お互いが安定剤であることは、夫婦としてはとても理想形ではあるけど、それじゃあ依月は永遠に、全てを封印されたままになってしまう。
だから、どうしてもこの時間は必要だった。
あの夜に感じたであろう恐怖などの感情で、能力面だけの封印が弾け飛んでしまった彼女には、感情を追いつかせる時間がどうしても必要なのだ。
じゃないと、廃人になってしまう。
そんな姿、互いに見たくも見せたくもないだろう。
「………………っ、」
─指輪を握らせると、依月は反応を見せた。
「契くんから貰ったもの?」
近くに座って優しく問いかけると、彼女の何も映さなかった瞳に光が映ったような。
「嬉しいね、大切だね。愛の証だ」
背中を撫でながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
感情封印状態で、彼の前であんなふうに笑ったり、怒ったり、泣いたり、と、感情を出せていたのは多分、彼の力によるものだ。
彼が、依月を素直でいさせてくれた。
本当にすごくすごく、彼は依月を大切にしてくれていて、それを依月は喜んでいた。
だから、その感情を思い出せばいい。
従えばいい。
彼は間違いなく、依月がどんなに泣いても、わがままを言っても、笑って許す。
逆に、それを喜んでくれるような男だろうし。
(父さん、変に守らなくても、自然と惹き付けちゃったよ。……母さんに似たのかね)
優しい両親は、依月を今も見守ってるだろうか。
「……け、い」
「うん」
「…………契」
「そうだね」
ほぼ、初めてだ。泣く以外で、彼女が声を出した。彼の名前を、初めて呼んだ。
「………………あい、たい」
白く細い頬を伝う涙。
その瞳は“無”ではなく、心が伴っているような。
「うん。言葉にしよう。会いたいね、依月」
「……っ」
抱き締めると、彼女は抱きついてきた。
(本当に大きくなったなあ)
……この子はきっと、大丈夫。
「会えるから。頑張ろう」
会わせてあげる。何があっても。
妹の幸せを一番に願うのが多分、兄ってものだろうから。
─それが、【兄の役目】だろうから。