それでも、あなたを愛してる。【終】
生まれ変わった少女と夢
「─お待たせ」
駅の近くの喫茶店に入ると、先に席に着いて、珈琲を飲んでいた青年が顔を上げた。
何年経っても変わらない見た目。
長い髪はいつも通り後ろでひとつに結われ、その端正な顔立ちは店内の女性の視線を奪っている。
「ごめんね、呼び出して」
席につくと、彼は眉根を下げて言ってきた。
珍しくしおらしい姿に笑みを漏らしつつ、
「良いよ〜。暇だしね」
メニューを手に取る。
「あ、苺パフェ頼んでいい?」
「勿論」
店員さんを呼び出して、彼の珈琲のおかわりと一緒に、パフェを頼んだ。
平日の昼間。少し混んでいる店内で、彼は呟く。
「─ねぇ、彩蝶に会った?」
「ううん。会えてない。連絡も取れていないの。早く会いたいんだけど、彩蝶の今の立場を考えると、色々と難しいみたいでね。一応、千陽さん経由でお願いして、今度、夫と会う予定」
夫は四季の家のひとつ─春の家の後継者とその弟、橘千景と橘千陽とは従兄弟同士だ。
お願いすれば、場を設けてもらえるとは思っていたが、自分のわがままでは頼みづらく、ズルズルと引き伸ばし続けて、とうとう、夫から『何か言いたいことない?』と聞かれた。
「……君が、良い人に出会えて良かったよ」
─夫と出会ったのは、一言で言えば、“夜の街”。
別にそこで働いていたわけでもなければ、遊んでいたわけでもなく、ただ、目の前の男に置いていかれた。ただ、それだけ。
「運命って知ってたの?」
「……まあね」
最初は、不安で仕方がなかった。
知らない場所に急に置いていかれて、かなり、目の前の男を恨みもしたけど、後から聞いた話だと、あそこに居られない理由があったと聞いた。
「悠月(ユヅキ)」
「なあに」
「あの夜は、ごめんね」
「良いよ、もう」
─私は、何も知らなかった。ずっと、アルコールの匂いがする場所にいたから。
お見舞いに来る人間なんていなければ、両親のことも知らないし、何なら、自分のことも分からない。
そんな私の前に、ある日突然現れたのが彼。
「貴方は私を病院から連れ出して、私に世界を教えてくれた。私が私で無くなっても大丈夫だと言って、私に名前をくれた。ずっと一緒って、父親ってこういう存在なのかなって思い始めた矢先に置いてかれたのは悲しかったけど、それに気付くより前に、あの人に出逢えたから」
振り返った時、目の前の男じゃなくて、今の夫が居た。目を見開いて、腕を引かれて。
『どこの子?』と聞かれて、『どこに行けば良いのか分からない』と言ったら、あの人は生活を調えてくれた。
彼に教えてもらった事以上に、あの人は世界を教えてくれて、守ってくれて、愛してくれた。