それでも、あなたを愛してる。【終】


(ステラやルナは神様で、元々、実体がない。でも、神力で実体化することも可能……)

この精神体の世界で、刹那に触れられないものは無い。同時に、依月も何にでも触れられている。

(綴や美言は、刹那が【役割】を与えた瞬間から、目に見える人間の姿化した。小さな光の玉だった彼らは元々、恋人同士だったこともあり、美幸を授かった。美幸は生まれた時から人型で……)

ステラ曰く、綴や美言は刹那が【役割】を与えた瞬間に、この空間の住人となったということらしい。
化け物を取り込んだ(推定)刹那は、この空間の掌握者、つまり、主人なので、刹那が【役割】を与えることが、彼らの存在を実体化する要因になったとか何とか─……。

人間だった刹那は、四季の家の人間として、冬の能力者としての能力は強かったが、そんな人外的な能力は持ち合わせていなかった。

となるとやはり、この空間は本当にユエの忘れ去った空間─つまり、一定の神気の満ちた空間というわけで、刹那がユエの捨てた化け物を取り込んだというのも、真実に近い話なのだろう。

(記憶にないけど……)

黒くて、大きな渦みたいな。
そんな存在に呑み込まれたことは覚えているが、その後のことなんてさっぱりだ。

全然知らん時代の、全然知らん場所に、傷は元からなかったかのような状態で放り出されていて、自分自身の【役割】らしきものに気づくまでには100年位は経っていた。

というのに、現実ではまだ20年も経っていないというのだから、やっぱり、時巡りには良いことも悪いこともあるな、なんて。

(そんな自分に神気や神力があるのかは知らないが、出ようと思えば、この空間からは出られる。普通に、街中を歩く人間に混じって、何時間、何日、多分、何年でも、生きていける。自分も、その対象とは考えたこともなかったけど─……)

正直、人間としての人生に戻ろうと思えば、戻れるのかもしれない、なんて。

戻ったところで、向こうで生きるために必要な身分とか、そういう全てのものは無くしてしまっているし、いくら人間として表で生活出来ていても、傷の治りの早さの異常さは、前に外に遊びに出た時に実感した。

だから、本当の意味で人間として生きていくことは無理だろうということも理解している。

もっとも、綴や美言たちとすごくこの時間や空間は嫌いじゃないし、心地よいから良いんだけど。

どうにかして、依月は彼の元に返してあげたい。
その身が、こちら側に近づく前に。
戻れなくなる前に。

だから、頑張って欲しいんだけど、既にめちゃくちゃ頑張っているであろう依月にこれ以上、刹那は何を言えば良いのか分からない。

─とりあえず、彼女が捨てられ、傷付けられそうになっていたあの夜、能力を暴走させてしまい、気絶していたあの日。

彼女が大切そうに握りしめていた指輪を引き出しから取りだして、依月の手のひらに握らせる。

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