それでも、あなたを愛してる。【終】
第五章☪ 消えぬ愛
墓参り
「─契、私も一緒に行ってもいい?」
午前中の会議を終えて、花屋に寄ると、丁度、先客としていた彼女が聞いてきた。
「彩蝶?」
「えへ。少し時間が出来たから、抜け出してきたの」
そう言って、ひとつの花束越しにはにかむ彼女は普段、立派な統率者である反面、今は可愛い一人の少女として、そこにいた。
「最近、集まれていないが大丈夫そうか?」
「うん。何とかね」
「身内は」
「現れる度、倒してるから大丈夫」
何が大丈夫なのか分からないが、彼女は笑ってそう言いながら、契の車に乗り込んだ。
「何時までに戻ればいいんだ?」
「さあ?」
「さあ?って……抜けてきたんだろ?」
「そうだけど……私が【規律】だもの。あの家はね、私が白といえば、黒も白になるのよ」
平然とそう言いのけた彩蝶を横目に、車を出す。
─依月の一件以降、彩蝶と過ごす時間が多くなった。色々と噂が回っているみたいだが、互いに他意はない。
今だって、共に向かう先は華やかな場所でもなんでもない墓場だ。
その墓場は椿家や雪城家、彩蝶のチョイスで、花々に囲まれた場所。
そこで眠るのは、雪城家当主妹であり、彩蝶の異母妹であるいろはの産みの母である彩花さんや、氷室家の皆さん─依月の実の両親や兄くらいなもので、本当に人目につかない静かな場所。
「……相変わらず、綺麗な場所だな」
契が車から降りて景色を見渡すのも待たず、彩蝶は無言で墓場に向かう。
ここに咲く花々は、自力での保存は難しい。
だから、定期的に千景達の父親が墓参りがてら訪れては、様々な花を咲かせていたのだと聞いてから、契約によって封じられてしまったとはいえ、彼らなりの贖罪を感じた。
─氷室家の墓は、まとめられていない。
正確に言えば、二基ある。
依月の両親のお墓と、兄のお墓。
聞いた話だと、両親の遺骨はあるらしい。
でも、兄のは行方不明なのだとか。
とても能力が強い人だったそうだから、嫌な事しか思いつかない。
彩蝶は丁寧にお兄さん─かつての婚約者のお墓を綺麗にし始めていて、その泣きそうな横顔が、契の胸を締め付けた。
「生きてれば、25歳かあ……」
そう言って、彩蝶は花を添える。
「─ねぇ、契?」
「うん?」
「私、結婚はしないからね」
「…うん」
「何があっても、どんな理由でもしない。約束したの。だから」
「うん」
彩蝶に近付き、俯くその頭に触れる。
「私の婚約者じゃなければ……死ななかったのかな。狙われなかったのかな。おじさんやおばさんも死なずに、依月だってあんな目に遭わずに」
顔を覆った彼女の声は、肩は震えていて、
「彼の横で、ドレスを着るのが夢だったの」
その願いは、空気に溶け込んで消えていく。