それでも、あなたを愛してる。【終】
守人
【運命の調律者】─刹那は、久々の外出に高く髪を結った。
所謂、ポニーテールだ。しかし、それでも、胸元あたりまで毛先がくるこの髪は、かなり伸びてしまっていたらしい。
「……ながいね」
準備を見ていた美幸がそう呟く。
「長いなー」
手伝ってくれていた綴も、感心したように。
「向こうで切ってきたら?美容院とかで」
「うーーん、そうする?」
「折角だし、依月と一緒にさ」
「可愛い髪型にして貰えたっけ」
「確か出来る。確認するか?」
「ううん、大丈夫。─今日からしばらくの間、人の世界に身を溶かすけど、目的は依月の情緒安定だし。─受け入れられるといいな」
今、別の場所で美言たちの手を借りて着替えたりしている依月は気づいていないかもしれないが、この空間の中で過ごした数ヶ月あまりの間、現実では2年半の時が流れていたりする。
「ずっと、繰り返し伝えてきたろ」
「覚えているかな」
「……」
それくらい、彼女の精神状態は脆くなっていた。
「半年くらい目安で行ってくるよ」
「うん。─美言達、最後かもしれないからって、すっごく可愛くするんだって言ってた」
「そっか」
外の世界に戻って、このまま、彼の元へ。
─その可能性は否定できない。
帰せるなら、一刻も早く帰してあげたいから。
「……刹那も、幸せになりなよ」
「え?」
「全部見てたからね。悠月に会った時のこと。あの子の夫に、飛鳥に願ったこと。全部、俺達は聞いてしまっているからね」
「……」
「泣いているよ。彩蝶は今でも。ずっと泣いて、君の死を悔やんでる。自らの存在を憎んでいる。彼女を救えるのは、お前だけだよ」
……随分なことを言ってくれる。
そんな簡単な問題じゃないことくらい、分かっているだろうに。
「俺は神様でもないけど、もう人間でもないんだぞ。綴」
「だから?」
「だからって……」
「君は人間だった。そして、神とは関わらぬ立場だったから、知らないだろう。でも、君が愛したあの子は愛し子だ。かつて、創世神たる彼が愛した司宮家初代……その御魂には、とめどない祝福が授けられている」
「……」
「外に出た時、お前は創世神の生まれ変わりや、朱雀宮契などに接触するのだろう?ならば、俺達が話したものだけではなく、依月と一緒に世界を見てくるといい」
綴が、何故かこの瞬間、遠い存在に見えた。
いつもは口煩い、兄のような存在だったのに。
「別に、俺は優しい存在なんかじゃない。美言や美幸のため、そう振舞っているだけだ。─非情にだって、全然身を落とせる」
「……」
「お前は、自分の傲慢さが運命を狂わせたと言っているが、この世界に運命などない。お前がいたから、【運命の調律者】は生まれた。それならば、お前がいなければ、そんなものは生まれてこなかった。─似たようなことを、お前は少し前に行って自虐していたが、本当にその通りだ」
いつだって、綴が教えてくれた。
刹那よりも何十倍、何百倍も生きているだろう彼が話す言葉を吸収して、真実も知った。
両親の死の要因を知った時、能力をコントロール出来なくなった刹那を止めてくれたのも、全部、全部綴であり、だからこそ、美言を彼の元に返してあげたくて、尽力した。