それでも、あなたを愛してる。【終】
愛している人
─ここはどこ?
ゆっくりと目を開けると、そこは一面、灰色の世界。
空を見上げると、満月が見えた。
静かで、平和で、優しいここは─……。
手を伸ばすと暖かくて、
そのまま寝転がると、気持ちよくて。
もう一度、目を閉じる。
─ずっと、ずっと、ここに、このまま。
そう、願い始めた時。
『あらあら、ダメよ。依月』
優しい声で、そう言われた。
『そうだね。帰らなくちゃ』
目を開けると、知らない男女が覗き込んでいた。
『……誰?』
『通りすがりの、おじさんとおばさんよ。ね』
『そうだね』
優しくて、温かい。
ふたりに手を取られ、身を起こした依月は何故か、女性の方に抱き締められた。
『大きくなったねぇ』
男性の方は優しい手で、頭を撫でてくれる。
『ぜーんぶ見てたけど、優しい人に出逢えて良かったね。依月』
『……』
『あの子も、貴女も、いっぱいいっぱい頑張って、繰り返して、ここまでたどり着いて……あと少しなんだけどね。能力のコントロールが上手くいかないみたいね』
『難しいもんね。仕方がないよ』
『そうよね。難しいよね。私達が教えられるかしら……?』
『でも、もうあまり時間ないよ、悠依(ユイ)』
『それは勿論、分かっているけど……でもでもっ!依月は彼のそばにいる時がいちばん、とても幸せそうに見えるんだもの』
抱きしめられていると、何故か懐かしい。
泣きたくなるような感覚に、依月は抱き締め返して、口を開く。
『……お父さん、お母さん?』
自信はなかった。でも、確信はあった。
顔を上げると、ふたりは一瞬、驚いた顔をして、すぐに優しく微笑んでくれた。
『無理に隠すこともないね』
『そうね。この子に今更、私達は要らないかもしれないと思ったけど……そうよ。依月。私がお母さんで、氷室悠依。彼がお父さんで、氷室叶(カノウ)って言うの。あなたを育てられなくて、ここに来るまで、いっぱい苦しめてごめんね』
─……これは、夢だよ。
夢だってわかっているよ。
でもね、温かくて優しくて、私が欲しかった…。