それでも、あなたを愛してる。【終】
『あとね。依月、君には兄がひとりいるよ。今も君のそばにずっと居て、君が目覚めるのを待っている。僕が遺した封印が解けて、君が苦しんでいる姿を見ながら、泣いている。優しい子なんだ』
『そうね。あそこで命を落とす運命だったのに、それをねじ曲げて、調律者になってしまった。元々、かなり繊細な子だったけど……まさか、自ら泉に身を投げるなんて思わなかった』
ふたりが話してくれる、依月の兄。
それは、やっぱり─……正直、何となくは察していた。依月の幸せを願い、祈ってくれる人。
『─どうか、泣かないで』
『あの子と同じ、優しい子』
頭を、頬を、撫でられる。
叩くのではなく、殴るのでもなく。
優しく、涙を拭ってくれる。
『依月、能力はね、心で使うのよ。私達の心に、祝福の力を授けてくれた神様が応えてくれるの。魔法みたいでしょう』
優しい声が、心に染み込んでいくような。
ゆっくりゆっくりと、言い聞かせるような。
『生贄……宮様として生まれたからって、これまでの人生に理由をつけないで。私達は貴女を過酷な運命に導くことしか出来なかったけど、貴女は産まれてからここに来るまで、色んな経験をしたでしょう。彼に、彼の家族に、幼なじみに、友人に愛されて、人を愛するやり方は知っているでしょう』
『もしも、決まった未来にしか進まない世界があって、その世界が君の生きる世界だったとしても。必ず、幸せになれるって確証がない未来がこの先、待っていたとしても。幸せになりたいと願いながら、生きていくことは悪いことじゃない。それに、間違いでもないんだよ。依月』
私が生きる場所なんて、どこにもないと思ってた。大好きな契の隣ですら、いつかは誰かに譲らなければならないからと、そう思っていた。
思っていた。ずっと、思っていたの─……。