それでも、あなたを愛してる。【終】



『……契だけ、だったの』

彼だけが、私の世界に色をくれた。
優しく抱き締めてくれた。愛してくれた。

暖かくて、役に立ちたいと願って、でも、そんなことは気にしなくていいと言うように、いっぱいいっぱい愛してくれて、本当に幸せで、泣きそうで、でも泣けなくて。

それが気味が悪いって、氷見では沢山殴られたのに。契は、誰も分からないはずの依月の感情をちゃんとすくい上げて、受け取って、笑ってくれた。

何かしなきゃと思いながら、彼に何も出来なくて、身に余るものばっかり貰って、いつかは“本物”に返さなくちゃならないのにって。

契にはもっと、相応しい人がいるって。
そう思っていたのに、それが嫌だと思っている自分はなんて傲慢なんだろうって思い始めて。

『こんなことになって、安心してる自分もいるの』

寂しくて仕方が無いのに。
そう言って泣き喚いているくせに、安心してる。

二度と会えない。

名前を呼ばれることもなくて、抱きしめられることも無い。そう思うと、胸が張り裂けそうなほど痛くて、苦しくて仕方が無いのに、二度と“本物”に会わなくていいことや、契を不幸にすることがないことに心から安堵していて、でもやっぱり、涙は止まってくれなくて。

『私を忘れて、契には前を向いて欲しい。幸せになって欲しい。私のことは気にせず、契は契だけの……っ』

嫌だと思うな。そんなことを思える資格は無い。
ずっと、そういう未来を想定してきた。だから。

『……だからっ、私、ここにずっと居ちゃダメ?お父さんとお母さんと一緒に……っ、ひとりはもうやだ……』

お兄ちゃんが待っている。優しいあの人が。
でも、これ以上、巻き込みたくないの。

必死に話しかけてくれているのに、この現実の3年間、私はちゃんと答えられない日の方が多くて、お兄ちゃんをいっぱい苦しめて、孤独にしたの。

『私は、私を許せないの……』

そうだ。ずっと、許せないのだ。
誰かの人生のお荷物になっている自分か許せなくて、何も出来ない自分の存在が歯痒くて。

『幸せになって欲しい。私がいない世界で、私の命、お兄ちゃんにあげるから……』

お兄ちゃんにも、愛している人がいる。
その人はきっと、契の近くにいるの。
私とお兄ちゃんの、存在を入れ替えられれば。

そしたら、きっと─……。

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