触れる指先 偽りの恋
今なら素直に
朝から企画会議が続いていた。初夏のシーズンメニューのために集められたプロジェクトメンバーは、専門が多岐に渡る。
もちろんそれぞれの部署――商品開発部だったり広報部だったりデジタル戦略部だったり――から代表してアサインされているメンバーが、該当の内容を中心となって進めていくのだが、プロジェクトの一員であるからには、専門外の分野でもアイディアを出さなければならない。
メニュー自体は机上を離れ、試作の段階に入っていた。今日は広告案の企画出しだ。それぞれのメニューは、季節の食材を使っているということとバレンタインを意識した、という共通点はあるものの、コンセプトに統一性があるわけではないので、イメージ戦略が難しい。
私やもう一期下の子が出した案は、まったく強度が足りず、話し合いの俎上にも上らなかった。
もともと商品案を出したというだけでプロジェクトに加えてもらっている自分に、大して期待されていないことはわかっているけれど、こうも己のできなさを突きつけられると悔しい。
出た案をひたすらメモしながら頭を巡らせていると、不意に相原さんのことを思い出してしまった。
彼女からは、仕事ができる女のオーラが漂っていた。
できる人とできない人、一体どう違うんだろうと考えてみるけれど、私なんかにわかるはずもなく。
そうこうしているうちに、またしても何もできなかった午後の会議が終わり、げっそりした気分で自席に戻ったときのことだった。
オフィス内が、にわかに騒がしい。
「どうしたんですか?」
「あー、明日から先行でチョコレートの限定メニューが始まるところがあるんだけど、販促のポップが足りてないって連絡が来て」
「え?」
それはバレンタインに予定している期間限定メニューを占う、事前企画だった。
チョコレートやいちごなどの人気素材を使ったメニューで、一年の中でもカフェが特に繁盛する季節にぶつけるものだ。
「え、大丈夫なんですか?」
「とりあえず今工場に走ってるから」
そう説明してくれた先輩は、もう途中から同僚のほうに意識がいっている。
「あ、でも本社の倉庫にあるサンプル持って行った方がいいかな?」
「向こうの在庫がわからないから、こっちのもかき集めて……」
「あー、誰か倉庫見てこれるひと……」
ぐるりと室内を見回すけれど、みなそれぞれの仕事でとても手が空いていないように見えた。
「私、いきましょうか?」
「え?」
咄嗟に口がそう動いていた。驚いた顔で先輩たちがこちらを見ている。
「いいよいいよ、もうすぐ定時だし。武井さんは今預かりってことなんだから」
「でも……みんなが困っているのに、さすがにこの状況で帰りますとは言えないというか」
「う……。それはそうか。じゃあ本当に申し訳ないんだけど、倉庫からこれ探してきてくれる? えーっと、ここに写真が」
プリントされた用紙の束から、サンプルの写真が載ったものを預かる。
「微妙に試作で型違いもあると思うんだけど、それっぽいやつ全部持ってきてもらえると助かる」
「わかりました!」
総務部に寄って鍵を借りて、地下の倉庫に急ぐ。十九時まであと十五分ほどしかない。とても定時には上がれそうもなかった。
エレベーターの中で、貴島さんにメッセージを打った。
――ごめんなさい、今日残業になってしまって。終わる時間が見えないので、また後日改めて、でも良いでしょうか。申し訳ありません。
送信ボタンを押す。ポケットにスマホを滑り込ませて、倉庫へ急いだ。
結局、倉庫の奥に追いやられていた販促グッズを、何往復かして根こそぎ運び出し、選り分け、梱包し直したときには、二十一時時近くになっていた。
もちろんそれぞれの部署――商品開発部だったり広報部だったりデジタル戦略部だったり――から代表してアサインされているメンバーが、該当の内容を中心となって進めていくのだが、プロジェクトの一員であるからには、専門外の分野でもアイディアを出さなければならない。
メニュー自体は机上を離れ、試作の段階に入っていた。今日は広告案の企画出しだ。それぞれのメニューは、季節の食材を使っているということとバレンタインを意識した、という共通点はあるものの、コンセプトに統一性があるわけではないので、イメージ戦略が難しい。
私やもう一期下の子が出した案は、まったく強度が足りず、話し合いの俎上にも上らなかった。
もともと商品案を出したというだけでプロジェクトに加えてもらっている自分に、大して期待されていないことはわかっているけれど、こうも己のできなさを突きつけられると悔しい。
出た案をひたすらメモしながら頭を巡らせていると、不意に相原さんのことを思い出してしまった。
彼女からは、仕事ができる女のオーラが漂っていた。
できる人とできない人、一体どう違うんだろうと考えてみるけれど、私なんかにわかるはずもなく。
そうこうしているうちに、またしても何もできなかった午後の会議が終わり、げっそりした気分で自席に戻ったときのことだった。
オフィス内が、にわかに騒がしい。
「どうしたんですか?」
「あー、明日から先行でチョコレートの限定メニューが始まるところがあるんだけど、販促のポップが足りてないって連絡が来て」
「え?」
それはバレンタインに予定している期間限定メニューを占う、事前企画だった。
チョコレートやいちごなどの人気素材を使ったメニューで、一年の中でもカフェが特に繁盛する季節にぶつけるものだ。
「え、大丈夫なんですか?」
「とりあえず今工場に走ってるから」
そう説明してくれた先輩は、もう途中から同僚のほうに意識がいっている。
「あ、でも本社の倉庫にあるサンプル持って行った方がいいかな?」
「向こうの在庫がわからないから、こっちのもかき集めて……」
「あー、誰か倉庫見てこれるひと……」
ぐるりと室内を見回すけれど、みなそれぞれの仕事でとても手が空いていないように見えた。
「私、いきましょうか?」
「え?」
咄嗟に口がそう動いていた。驚いた顔で先輩たちがこちらを見ている。
「いいよいいよ、もうすぐ定時だし。武井さんは今預かりってことなんだから」
「でも……みんなが困っているのに、さすがにこの状況で帰りますとは言えないというか」
「う……。それはそうか。じゃあ本当に申し訳ないんだけど、倉庫からこれ探してきてくれる? えーっと、ここに写真が」
プリントされた用紙の束から、サンプルの写真が載ったものを預かる。
「微妙に試作で型違いもあると思うんだけど、それっぽいやつ全部持ってきてもらえると助かる」
「わかりました!」
総務部に寄って鍵を借りて、地下の倉庫に急ぐ。十九時まであと十五分ほどしかない。とても定時には上がれそうもなかった。
エレベーターの中で、貴島さんにメッセージを打った。
――ごめんなさい、今日残業になってしまって。終わる時間が見えないので、また後日改めて、でも良いでしょうか。申し訳ありません。
送信ボタンを押す。ポケットにスマホを滑り込ませて、倉庫へ急いだ。
結局、倉庫の奥に追いやられていた販促グッズを、何往復かして根こそぎ運び出し、選り分け、梱包し直したときには、二十一時時近くになっていた。