触れる指先 偽りの恋
 ぐいっと体を持ち上げられ、気がつくと力強い腕に横抱きにされていた。
 思わず首元に縋るように手をまわす。貴島さんは廊下を進んだ先のドアを乱雑に開けた。ベッドが目に飛び込んでくる。
 そこに、柔らかく下ろされた。体勢を整える間もなく、覆い被さるように貴島さんがのしかかってきて、そのまま口付けられる。唇だけじゃなくて、瞼も頬も耳も。そして内腿にも唇が這う。
 じっと貴島さんを見つめると、再びちゅっと唇が重ねられ、うっとりと目を閉じる。
 やがてベルトを外す音が聞こえてきて、そっと目を開くと、衣服を脱ぎ捨てた貴島さんが反り立った自身に避妊具をつけているのが目に飛び込んできた。
 咄嗟に目を逸らしたけれど、見ていたことに気づいたのか、貴島さんは私の胸に吸い付いた。舌先でちろちろと舐められる。赤い舌が自分の胸元を這っているのが見えて、どくんと体が疼いた。
 やがて貴島さんの指が再び秘裂に触れる。そこはまだ十分に潤っていて、簡単に指先を飲み込んでしまった。さっきよりも多い本数でくるくると掻き回させれるたびに、びちゃびちゃと湿った水音が響く。

「ん……っ」

 達して間もない私の体は、簡単に開いてしまう。
 貴島さんが指を抜こうとするのを、きゅっと締め付けてしまった。
 それを咎めるように、貴島さんが口端を上げる。
 止める間もなく指先は引き抜かれていき、体の奥が物足りなくて震えが走った。
 けれどそんな物足りなさは、押し当てられた熱い塊で、一気に吹き飛んでいった。ゆるゆると押し付けるように擦られて、それだけで気持ちよくて腰が動いてしまう。
 貴島さんが笑って、私の腰を抑えるように腕をまわす。快感を追い求めて腰を動かすことを止められたのに、いっそう陰茎を押し付けられて、きゅんと身体の奥が疼く。

 「……っ……挿れるよ?」

 優しく宣言されて、何度も頷く。早く身体の奥まで突いてほしい。そんなはしたない欲望でいっぱいだった。
 溢れるほど蜜で濡れたそこは、ゆっくりと押し入ってくる貴島さん自身を、簡単に受け入れる。それでも指とは違う質量に、体が震えた。

「締めすぎ……っ」

 貴島さんが頭上で短い息を吐く。きゅっと寄った眉根が、快感を我慢しているのを伝えている。その表情がまた私の快感を煽っていく。
 体の奥に力が入るのを止められない。

「武井さん、待っ……て……っ」

 そう言われても、どうして良いのかわからない。ふーふーと貴島さんが息を吐く。
 それでも苦悶の表情を浮かべながら、ゆっくりと奥まで入ってきた。

「は、あ……んっ……」

 体の奥からより強い快感が競り上がってきて、またきゅっと体の奥が締まる。

「ごめ……っ……夏穂っ」

 名前を呼ばれて、身体が喜びで震えた。
 その隙に、貴島さんが一気に奥まで腰を進める。
 それから擦り付けるように前後に動かされ、そのたびに言葉にならない声が漏れた。
 先ほどより大きな淫らな水音が部屋のなかに響いている。
 
「あ、あ、やああ……んっ」
 
 今まで感じたことがないような快感に、甲高い声が漏れてしまう。
 貴島さんが腰を打ちつけるスピードがどんどん上がっていき、体が、つながった部分が熱くてたまらない。
 
「夏穂、夏穂……っ可愛い……」

 張り付いた髪を避けて、貴島さんの唇が落ちてくる。体の中心も唇も塞がれて、全部を貴島さんと繋がっていると実感した瞬間、びりびりした快感が襲ってきた。
 
「ん……っ……んんっ」
 
 塞がった唇からくぐもった喘ぎ声が漏れる。
 貴島さんの指が、花芯に触れた。予想していなかった感触に、頭の中が真っ白になる。
 
「く……っ」

 貴島さんが呻いて、腰の抽送がいっそう早まった。
「夏穂、もう……っ」

 腰を引き寄せられ、一段と奥まで挿し込まれる。ぎゅっと脚に力が入り、チカチカと瞼の裏が明滅する――と思った瞬間、最奥を抉るように突かれ、被膜越しに欲を放たれた。

「ごめん……いきなりこんなつもりじゃなかったんだけど」

 避妊具を処理した貴島さんが、私の髪を漉きながら伏せ目がちに言う。
 力の入らない顔をふるふると振って答える。

「武井さん、体大丈夫……?」

 起き上がる気配のない私を見て、心配そうに訊ねられる。

「大丈夫、です……」

 声が掠れていて、どれだけ喘いでいたのか考えるとそちらの方が恥ずかしい。
 けれど。

「名前、呼んでもらえないんですか……?」

 貴島さんがぱちぱちと目を瞬かせた。

「夏穂……?」
「はい」

 低い声で穏やかに呼びかけられるのが嬉しい。笑みが溢れる。

「じゃあ、夏穂も呼んで」

 そう言われて、今度はこちらが目を逸らす番だった。

「夏穂ー?」

 並んで横になった貴島さんが、こちらを覗くように目を合わせてくる。

「えっ、と」
「うん」
「……春樹、さん」

 小さな声だったけれど、ちゃんと届いたらしい。貴島さんは目尻を下げた。

「うん」

 長い指先が伸びてきてくすぐるように頬を撫でる。

「好きだよ」

 耳元でそう囁かれて、うっとりと目を閉じた。

「はい、私もです。春樹さん」

 ぬくもりを求めるように擦り寄ると、緩く抱きしめられる。
 穏やかな心音が響いてきて、このひととずっと一緒にいたい――そう強く思った。
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