君の隣が、いちばん遠い


そして、バレンタイン当日。

朝から学校全体がざわざわしていた。

靴箱の前で女子が友チョコを交換し合い、先生に日ごろの感謝を込めたチョコを渡す生徒もちらほら見かけた。


わたしは、渡すタイミングをずっと探していた。



放課後。

校舎の裏の、人気の少ない階段の踊り場。

一ノ瀬くんとふたりきりで立っていた。


「……これ、渡したかったの」


わたしがそっと差し出したのは、昨晩仕上げたハート型のチョコレート。

小さな箱に、深い青のリボン。


一ノ瀬くんは目を見開いてから、ふっと笑った。


「ありがとう。……うれしい」


その声に、わたしの頬がじんわり熱くなる。


「手作り?」

「……うん」

「すごいなぁ。俺、こういうの初めてもらったかも」


沈黙が少しだけ流れる。

でも、その沈黙は気まずさではなく、やさしさをまとっていた。

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