君の隣が、いちばん遠い
帰り道。
昇降口へ向かう途中、ふたりはふと立ち止まる。
紗英ちゃんが、柊くんの靴箱にこっそりと何かを入れていた。
わたしはすぐに気づいた。
「……あれ、チョコ?」
「たぶん、そうだな」
わたしたちは物陰に身をひそめて、そっとその様子を見守った。
紗英ちゃんはそわそわしながら、袋を入れて足早に去っていった。
「柊くんって、好きな子いるのかな?」
わたしがつぶやくと、一ノ瀬くんは肩をすくめた。
「さあ。あいつ、鈍いからなぁ。自分が好きになったことにも、気づかないんじゃない?」
「……なんか、それ、ちょっとわかるかも」
わたしたちは笑い合った。
冬の空気は冷たいけれど、心はあたたかい。
小さな勇気で踏み出した一日が、静かに終わろうとしていた。
恋人として迎えた初めてのバレンタイン。
わたしの気持ちは、ちゃんと届いたかな──。
そう願いながら、わたしは一ノ瀬くんの隣を歩いていった。