君の隣が、いちばん遠い
②ただ、となりにいられる日々
二月の終わりが近づき、街にはほんのりと春の気配が漂いはじめていた。
空気はまだ冷たいけれど、陽ざしはどこかやわらかくて、わたしの心も少しずつほぐれていくようだった。
一ノ瀬くんと付き合うようになって、初めての季節の変わり目を迎えている。
毎朝、一緒に登校する時間が、わたしのなによりの楽しみになっていた。
「おはよう」
「おはよう、佐倉さん」
名前を呼ばれるたび、胸の奥がじんわりとあたたまる。
手袋をしたまま並んで歩く私たちは、すれ違うクラスメイトたちに何気なく挨拶をして、何事もないように会話を交わした。
でも、信号待ちのときや、誰もいない道を歩くとき、一ノ瀬くんがそっとわたしの手を握ってくる。
そのたびに、わたしは胸がぎゅっとなって、言葉が出なくなってしまう。
手袋越しじゃなくて、ほんとうの温度を感じられるその手が、嬉しくて仕方なかった。
「今日、勉強会しようか。図書室、空いてると思うんだ」
「……うん。そうだね」