君の隣が、いちばん遠い
一ノ瀬くんとの距離は変わらないようで、どこか不安定な部分もある。
塾や勉強、行事の準備。
色んなものに追われて、気づかないうちに、少しずつ「会話の密度」が薄くなっている気がした。
翌日、教室では文化祭の話が本格的に動き出していた。
「お化け屋敷どう?」
「ベタじゃない?」
「逆にベタがウケるんだって!」
教室はにぎやかだったけれど、わたしはなんとなく外の空を見つめていた。
ああ、秋なんだな。
それだけで、胸の奥が少しだけきゅっとなる。
そのとき、後ろから紗英ちゃんの声が聞こえた。
「ねえ、ひより」
「うん?」
「……柊、なんか最近変じゃない?」
「え……そう、かな」
私は昨日の放課後に見たふたりのやりとりを思い出した。
「なんかさ、言いたいことありそうなのに言わないっていうか。こっちが聞いても、ふわっとかわされるし」
「うん……」
紗英ちゃんは、笑っているようで、少しだけ寂しそうな目をしていた。
それが、なぜか胸に残った。