君の隣が、いちばん遠い
③誰にも見せなかった私
朝、目が覚めると、窓の外は晴れていた。
夏を目前にした濃い青空。
湿度の高い空気が、今日の特別な日をはっきりと知らせてくれる。
制服ではなく、体育祭用に体操服を着て、ゆっくりと髪をふたつに結んだ。
鏡に映る自分の顔は、どこか緊張している。
見慣れたような、そうでないような表情をしていた。
今日は、体育祭だ。
──何も起こりませんように。
できれば、空気のように過ぎていきたい。
誰の記憶にも、残らないように。
ひよりは心の中で、そんな願いを繰り返していた。
教室の空気は、いつもより明るく騒がしかった。
色とりどりのハチマキ。
笑い声。
緊張と高揚が混ざった特別な朝。
わたしは装飾係として、目立たない仕事を黙々とこなしていた。
誰かの役に立つ。でも、注目はされない。
それが、わたしにとっての“安心できる場所”だった。