君の隣が、いちばん遠い
 

けれど、その場所は簡単に壊れていった。

 

「リレーのメンバーの一人、足痛めたみたいなんだよ」

「補欠……佐倉さん、走れる?」


一斉に向けられる視線が、突き刺さって痛かった。


「……はい」


わたしの声は小さかったけれど、はっきりとした声だった。

断る理由も、勇気もなかったのだ。


……でも、怖い。

 

手のひらにじっとりと汗がにじむ。

バトンの感触が重く感じられる。


そんなとき、背後から声がした。

 

「佐倉さん」


振り返ると、一ノ瀬くんがいた。


「大丈夫。……ちゃんと見てるから」


その言葉が、まっすぐに胸に届いた。

“見られる”ことが、こんなにも温かいなんて──

 

そして、リレーが始まった。

足音、歓声、砂の感触。


——怖い。でも……逃げたくない。


前だけを見て、バトンを繋いだ。

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