君の隣が、いちばん遠い
観客のざわめきが戻ってくる。
視線の中に、彼の目がある気がした。
そして──ゴール。
一気に歓声が大きくなった。
「ナイスラン」
「……ありがとう」
わたしの額に、一筋の汗が伝った。
岸本さんが肩をぽんと叩いて「すごかったよ!」と笑う。
──今日は、なぜか、大丈夫だった。
私、ちゃんとこの輪の中にいる。
放課後。
少し疲れた足を引きずるように歩いていると、一ノ瀬くんからメッセージが届いた。
《この後、時間ある?》
カフェの窓際、静かな午後の光が注いでいた。
わたしはストローを回しながら、口を開いた。
「……今日、ちょっと、怖かった」
一ノ瀬くんと待ち合わせをしたのは、例のカフェ。
私の声を聞いて、彼がそっと顔を上げる。
「でも、逃げたくなかったのは……見ててくれる人がいると思ったから」