君の隣が、いちばん遠い
しばらく沈黙があって、一ノ瀬くんが言った。
「……無理してるなって、思ってた」
「え?」
「俺、ずっと、無理して笑ってる気がしてて。でも、それって勝手な思い込みかもしれないから、言えなかった」
わたしは驚いたように目を見開いた。
「でも、今日の佐倉さんは、ちゃんと……“そのまま”だった」
その言葉に、そっと視線を落とす。
「……そのままだなんて、よくわかんないけど。でも、うれしいかも」
そのあと、わたしたちは何も言わず、ただ同じ空間に座っていた。
家に帰ると、いとこの美帆ちゃんがキッチンから顔を出した。
「ひより、今日疲れたでしょ? お風呂早めに入っちゃいな」
「……うん」
それだけのやりとりなのに、わたしはふっと微笑んだ。
美帆ちゃんは気づいていたのかいないのか、冷蔵庫を開けながら小さく「おつかれさま」とつぶやいた。