君の隣が、いちばん遠い
「……こうやって、誰かと一緒に帰るのって、初めてかもしれない」
一ノ瀬くんが顔を上げる。
「そうなの?」
「うん。いつもひとりだったし……なんか、こういうの、緊張する」
「俺も、そんなに得意じゃないよ」
一ノ瀬くんは、ゆるく笑った。
「でも、佐倉さんとは、平気かも」
その言葉に、わたしは目を丸くした。
そして、静かに頬があつくなっていく。
「……なんで、わたし?」
「うん。なんでも」
彼の答えになっていない答えに、ますます戸惑いを隠せない。
一ノ瀬くんに動揺を悟られないようにと、カップを手に取り、そっと口をつけた。
そこからは、会話は少なかった。
気まずさはない。
“そこにいる”こと自体が、安心だった。
カフェを出ると、空は茜色に染まりはじめていた。
川沿いの道を、わたしたちは自然と歩き始める。
少しだけ涼しい風が吹き、わたしの髪が揺れた。