君の隣が、いちばん遠い
あの夏のカフェ、河原、そして夜空に咲いた花火。
あの瞬間に交わされた静かな言葉と、そっと添えられた手の感触。
わたしの胸の奥には、まだやさしく残っていた。
その空気が続いていくのか、変わっていくのか。
わからないけれど、たしかにあの時間は、本物だったと思えた。
そして、ホームルームの冒頭。
担任の久遠先生が声を上げた。
「じゃ、今日はいきなりだけど……席替えします」
一瞬、教室中がざわつく。
待ってましたとばかりに騒ぐ男子たち。
目で合図を送り合う女子たち。
わたしは、手元のノートを閉じながら静かに息を吐いた。
くじ引きで決まった新しい席。
黒板に向かって左側の窓際だった。
そして──その右隣の席には、全く話したことがない吉岡の名前があった。
背が高く、無口で、読書好きの男子。
美術部でよくスケッチをしているのを見かける。
クラスでも派手さはないが、妙に存在感がある。