おまじないの力
夕食を終えて、モールを出た頃には空がほんのり紫色に染まり始めていた。
日曜の夜、人通りはまばらになり、建物の明かりが心地よい静けさをつくり出していた。
「……なんか、ちょっと名残惜しいね」
私がぽつりとこぼすと、千歳くんがとなりで「うん」と短く返してくれた。
「日曜の夜って、なんとなく寂しいっていうか、明日から切り替えなきゃなって思うから……」
「わかる。いつもより家に帰るの、ちょっと静かに感じる」
そんな会話を交わしながら、駅までの帰り道を歩く。
腕が触れそうな距離。でも、触れない。
手をつないでいた映画館のあのときとはまた違う、“大切な間”がそこにあった。
あと少しで駅というタイミングで、
千歳くんが、ふと立ち止まった。
「……葉月ちゃん」
「うん?」
その声のトーンが、さっきまでと少し違っていて、私は思わず足を止めた。
千歳くんは、私の方へくるりと向き直って、
やわらかく笑いながら、少しだけ首をかしげた。
「今日さ……俺、すごく楽しかった」
「私も。ほんとに」
「会うたびに、“好き”って思いが増えてくるのがわかるんだ」
その言葉に、胸がいっぱいになって、私はそっと視線を落とした。
でも次の瞬間――
彼の手が、私の髪にやさしく触れた。
前髪をそっとかき上げるように、指が額にふれて、
そしてそのまま――
おでこに、ふわりと、やさしくキスが落ちた。
ほんの一瞬だったけど、
それだけで胸の奥が熱くなって、なにかがじんわりと広がっていった。
千歳くんは、すぐに一歩下がって、少し照れたように微笑んだ。
「……明日から仕事、頑張るおまじないね」
「……え」
「効くかわかんないけど、俺がかけたから、きっと効果あるよ」
そう言って、彼は私の頭をぽんぽんと優しく撫でた。
まるで、子どもをあやすみたいに、でも、とても愛おしそうに。
顔が、熱い。
うまく言葉が出てこなくて、私はうつむいたまま、小さく笑った。
「……効きすぎて、寝るのもったいなくなりそう」
「それはちょっと困るな。ちゃんと寝てね」
「うん……ありがとう、千歳くん」
駅の改札まで、もうほんの数歩。
だけど、今日のすべてがそこにぎゅっと詰まってる気がして、足取りがとてもゆっくりになった。
改札の前で立ち止まり、
ふたり、また目を合わせる。
「今日は、ほんとにありがとう」
「また、会おうね。近いうちに」
「うん」
「おやすみ、葉月ちゃん」
「おやすみ、千歳くん」
改札を抜けて振り返ったとき、
千歳くんがまだその場に立って、手を小さく振っていた。
私も、胸の中でそっと手を振り返した。
そして思う。
きっとあのキスは、
“おまじない”じゃなくて、“約束”だったんだ。
また会いたい。ちゃんと、もっと、恋をしていきたい。
そう思わせてくれる――千歳くんとの、
日曜日の魔法みたいな一日だった。
――“好き”に理由なんてなくて、ただこの人がいいと思えることが、おまじないの力だ。
日曜の夜、人通りはまばらになり、建物の明かりが心地よい静けさをつくり出していた。
「……なんか、ちょっと名残惜しいね」
私がぽつりとこぼすと、千歳くんがとなりで「うん」と短く返してくれた。
「日曜の夜って、なんとなく寂しいっていうか、明日から切り替えなきゃなって思うから……」
「わかる。いつもより家に帰るの、ちょっと静かに感じる」
そんな会話を交わしながら、駅までの帰り道を歩く。
腕が触れそうな距離。でも、触れない。
手をつないでいた映画館のあのときとはまた違う、“大切な間”がそこにあった。
あと少しで駅というタイミングで、
千歳くんが、ふと立ち止まった。
「……葉月ちゃん」
「うん?」
その声のトーンが、さっきまでと少し違っていて、私は思わず足を止めた。
千歳くんは、私の方へくるりと向き直って、
やわらかく笑いながら、少しだけ首をかしげた。
「今日さ……俺、すごく楽しかった」
「私も。ほんとに」
「会うたびに、“好き”って思いが増えてくるのがわかるんだ」
その言葉に、胸がいっぱいになって、私はそっと視線を落とした。
でも次の瞬間――
彼の手が、私の髪にやさしく触れた。
前髪をそっとかき上げるように、指が額にふれて、
そしてそのまま――
おでこに、ふわりと、やさしくキスが落ちた。
ほんの一瞬だったけど、
それだけで胸の奥が熱くなって、なにかがじんわりと広がっていった。
千歳くんは、すぐに一歩下がって、少し照れたように微笑んだ。
「……明日から仕事、頑張るおまじないね」
「……え」
「効くかわかんないけど、俺がかけたから、きっと効果あるよ」
そう言って、彼は私の頭をぽんぽんと優しく撫でた。
まるで、子どもをあやすみたいに、でも、とても愛おしそうに。
顔が、熱い。
うまく言葉が出てこなくて、私はうつむいたまま、小さく笑った。
「……効きすぎて、寝るのもったいなくなりそう」
「それはちょっと困るな。ちゃんと寝てね」
「うん……ありがとう、千歳くん」
駅の改札まで、もうほんの数歩。
だけど、今日のすべてがそこにぎゅっと詰まってる気がして、足取りがとてもゆっくりになった。
改札の前で立ち止まり、
ふたり、また目を合わせる。
「今日は、ほんとにありがとう」
「また、会おうね。近いうちに」
「うん」
「おやすみ、葉月ちゃん」
「おやすみ、千歳くん」
改札を抜けて振り返ったとき、
千歳くんがまだその場に立って、手を小さく振っていた。
私も、胸の中でそっと手を振り返した。
そして思う。
きっとあのキスは、
“おまじない”じゃなくて、“約束”だったんだ。
また会いたい。ちゃんと、もっと、恋をしていきたい。
そう思わせてくれる――千歳くんとの、
日曜日の魔法みたいな一日だった。
――“好き”に理由なんてなくて、ただこの人がいいと思えることが、おまじないの力だ。


