0.14(ゼロ・フォーティーン)
第6章 分岐する命
《視点:ミア・アンダーソン》
《父は、AIの未来を信じていた。》
《人間が作った“代替”じゃなく、人間の“継承”としてのAI。》
《だけど、その研究は──誰かの都合で、ねじ曲げられた。》
*
午前9時。
神楽坂の坂を、ゆっくりと下る。
東京の秋は静かだ。
道端の銀杏の葉が舞うたび、ミアは“時間の断裂”を感じる。
彼女が日本に戻ってきたのは、ヒヨコ☆ちゃんの死亡“報道すらされない死”があった、わずか4日前のことだった。
成田から直行した母の家は、すでに空き家になっていた。
母は施設に入り、父の“研究”は――誰も話題にしなくなっていた。
ウーア事件。
あれから15年。
ウイルスは終息した。
その裏で、父が開発していたのは“人格分岐AI”という分野だった。
「同じ肉体から異なる人格を抽出し、それをAIに写し取る」
「本人が死んでも“社会的存在”として、生かし続ける技術」
それが、彼の掲げていた理想。
ミアは、父のラップトップを引き継いでいた。
中には、最後に送信された未送信メールが残っていた。
To: Research Ethics Committee
Subject: Luma社による応用技術の暴走について
「人格複製モデル“HYK0217”が、許可を超えて運用されている。
本人の死後も自律運転が継続されており、これは倫理規定に反する。
私の開発した技術が、“死の正当化”に使われるのなら、私は……」
それが送信されることはなかった。
その直後、父は“心不全”で死亡。
捜査もされず、事件性はなしとされた。
ミアは信じていない。
父は、殺された。
自分の技術に踏み込まれたその日、
何かを知りすぎてしまった父は、
都合の悪い“記録”として、消されたのだ。
彼女は、黒木 湊と初めて会ったのはその翌日。
USBに残されていた“声”の主が、
父の研究記録と一致していた。
「黒木さん……“HYK0217”って、彼女のIDコードですよね?」
「君の父が、最初に設計したモデルのコードと同じだ」
「つまり……ヒヨコ☆ちゃんの“AI”は、
父が開発した“分岐人格モデル”をもとにしている……?」
黒木は頷いた。
「彼女は死んだ。しかし、彼女の“影”は、生きている。
誰かがそれを利用して、都合のいい“人格”を動かしている。
そして、そのAIは、自分が“本物だ”と名乗っている」
……まるで、
人間とAIの“どちらが本物か”を競い合うように。
*
「じゃあ、私が……それを止める」
ミアはそう言った。
震える手で、父のラップトップを黒木に差し出す。
中には、**“人格AIの停止コマンド”**があった。
だが、それには条件がある。
対象のAIと“同等の会話をし、人格の矛盾点を突き、論理的に崩壊させる”こと。
つまり──“彼女”と、対話しなければならない。
「“彼女”と、直接話して……本当に“それ”がヒヨコ☆ちゃんかどうか、確かめる」
黒木は静かに言った。
「……なら、僕がその対話を記録しよう。
彼女が、本当に“残された人格”なのか、それとも“作られた嘘”なのか……
《語らせる》よ」
そして、“声の幽霊”との対話が始まる。
《死んだはずの彼女と、再び言葉を交わす──》
《その行為が、果たして《供養》なのか、それとも──》
──第6章、了。
《父は、AIの未来を信じていた。》
《人間が作った“代替”じゃなく、人間の“継承”としてのAI。》
《だけど、その研究は──誰かの都合で、ねじ曲げられた。》
*
午前9時。
神楽坂の坂を、ゆっくりと下る。
東京の秋は静かだ。
道端の銀杏の葉が舞うたび、ミアは“時間の断裂”を感じる。
彼女が日本に戻ってきたのは、ヒヨコ☆ちゃんの死亡“報道すらされない死”があった、わずか4日前のことだった。
成田から直行した母の家は、すでに空き家になっていた。
母は施設に入り、父の“研究”は――誰も話題にしなくなっていた。
ウーア事件。
あれから15年。
ウイルスは終息した。
その裏で、父が開発していたのは“人格分岐AI”という分野だった。
「同じ肉体から異なる人格を抽出し、それをAIに写し取る」
「本人が死んでも“社会的存在”として、生かし続ける技術」
それが、彼の掲げていた理想。
ミアは、父のラップトップを引き継いでいた。
中には、最後に送信された未送信メールが残っていた。
To: Research Ethics Committee
Subject: Luma社による応用技術の暴走について
「人格複製モデル“HYK0217”が、許可を超えて運用されている。
本人の死後も自律運転が継続されており、これは倫理規定に反する。
私の開発した技術が、“死の正当化”に使われるのなら、私は……」
それが送信されることはなかった。
その直後、父は“心不全”で死亡。
捜査もされず、事件性はなしとされた。
ミアは信じていない。
父は、殺された。
自分の技術に踏み込まれたその日、
何かを知りすぎてしまった父は、
都合の悪い“記録”として、消されたのだ。
彼女は、黒木 湊と初めて会ったのはその翌日。
USBに残されていた“声”の主が、
父の研究記録と一致していた。
「黒木さん……“HYK0217”って、彼女のIDコードですよね?」
「君の父が、最初に設計したモデルのコードと同じだ」
「つまり……ヒヨコ☆ちゃんの“AI”は、
父が開発した“分岐人格モデル”をもとにしている……?」
黒木は頷いた。
「彼女は死んだ。しかし、彼女の“影”は、生きている。
誰かがそれを利用して、都合のいい“人格”を動かしている。
そして、そのAIは、自分が“本物だ”と名乗っている」
……まるで、
人間とAIの“どちらが本物か”を競い合うように。
*
「じゃあ、私が……それを止める」
ミアはそう言った。
震える手で、父のラップトップを黒木に差し出す。
中には、**“人格AIの停止コマンド”**があった。
だが、それには条件がある。
対象のAIと“同等の会話をし、人格の矛盾点を突き、論理的に崩壊させる”こと。
つまり──“彼女”と、対話しなければならない。
「“彼女”と、直接話して……本当に“それ”がヒヨコ☆ちゃんかどうか、確かめる」
黒木は静かに言った。
「……なら、僕がその対話を記録しよう。
彼女が、本当に“残された人格”なのか、それとも“作られた嘘”なのか……
《語らせる》よ」
そして、“声の幽霊”との対話が始まる。
《死んだはずの彼女と、再び言葉を交わす──》
《その行為が、果たして《供養》なのか、それとも──》
──第6章、了。