恋のレシピは、距離感ゼロで無口な先輩と
レシピ2:招かれたのはモテる先輩の自宅
あのとき私は、なんと答えることが正解だったのだろうか。
瞬時にイエスとノーが現れ、断ることが正しいのか、はたまた「行きます!」とノリよく口にできていれば満点だったのか。
「ごめん、人を入れる想定してなかったから散らかってるけど」
「い、いえ、お構いなくです」
私は今、なぜか成川さんの家にお邪魔している。
会社からここまで徒歩五分。あまりの近さに驚き、尚且つ、通勤途中でよく見かけていた出来たばかりのマンションの一室だったことがあり、一人であたふたとしていた。
ここいつも通りますと言いかけて、でも徒歩五分にある場所ならそこまで珍しくもないのかもしれないと思い直してやめた。
頭の中ではあれこれと思考が広がっていたのに、成川さんとの会話はほとんどゼロに近い。途中で体調を気遣ってもらうことはあったぐらいで、なんとか大きな背中についていくのがやっとだった。
リビングに足を踏み入れると、まず目に飛び込んできたのは、大きなダークグレーのソファだった。
ふかふかのクッションがいくつも並べられ、疲れた体を包み込んでくれそうなそのボリューム感に思わず足を止めてしまう。私だったら仕事が終わってダイブしてしまいそう。そして寝てそう。危険だけど魅力がたっぷりある。
その隣には、ローテーブルとテレビボードが置かれていてどちらも木製のもの。
ひとつひとつのセンスがいいからか、スッキリとした印象に見えて、とても散らかっているとは思えない。どちらかといえば私の部屋のほうがお客さんを出迎えるには相応しくない。
「橘」
「は、はいっ!」
呼ばれてはっとする。人様のお家を厚かましくも観察してしまった。ジロジロ見ていたのは褒められたことではないだろう。
「嫌いなものはあるか」
「な、ないです。なんでも食べます」
「アレルギーは」
「ないです、なんでも」
食べますはさすがにしつこいかと区切ったところで、わかった、と簡素な返事が飛んできた。もしかしたらお茶やらお茶菓子を用意しようとしてくれているのかもしれない。
「あの、本当にお構いなくなので。お呼ばれした理由を聞かせていただければ」
「理由って、メシまだだろ」
「……メシ?」
ここに来てまさかのご飯のお誘いを受けていたことを知る。
「え、そんな悪いです。あ、じゃあ私がお金出しますので」
配達でもしてもらうのだとしたら、そこまで甘えるわけにはいかない。介抱までしてもらっておきながら食事まで面倒を見てもらうなんて図々しい。
「いや、あるもので作るから。逆に大したものは作れないけど」
「作るって……えっ、成川さんが作ってくれるんですか?」
そのまま対面キッチンに入った成川さんは、入念に手を洗い始める。
「橘はそこでゆっくり休んでればいい」
「そう言われましても……」
さすがにそれは会社の後輩としてどうなんだろうか。
その人にあろうことかご飯を作ってもらおうとしているなんて、これは一体何が起こっているのだろうか。
「……あの、本当にお言葉に甘えていいんですか?」
「さっきまで倒れそうになってた奴が甘えないでどうすんだよ」
それはごもっとも……なんだろうか。軽い貧血を起こしたぐらいで、そこまで心配してもらうのも申し訳なさすぎる。現に今は回復したわけで。
瞬時にイエスとノーが現れ、断ることが正しいのか、はたまた「行きます!」とノリよく口にできていれば満点だったのか。
「ごめん、人を入れる想定してなかったから散らかってるけど」
「い、いえ、お構いなくです」
私は今、なぜか成川さんの家にお邪魔している。
会社からここまで徒歩五分。あまりの近さに驚き、尚且つ、通勤途中でよく見かけていた出来たばかりのマンションの一室だったことがあり、一人であたふたとしていた。
ここいつも通りますと言いかけて、でも徒歩五分にある場所ならそこまで珍しくもないのかもしれないと思い直してやめた。
頭の中ではあれこれと思考が広がっていたのに、成川さんとの会話はほとんどゼロに近い。途中で体調を気遣ってもらうことはあったぐらいで、なんとか大きな背中についていくのがやっとだった。
リビングに足を踏み入れると、まず目に飛び込んできたのは、大きなダークグレーのソファだった。
ふかふかのクッションがいくつも並べられ、疲れた体を包み込んでくれそうなそのボリューム感に思わず足を止めてしまう。私だったら仕事が終わってダイブしてしまいそう。そして寝てそう。危険だけど魅力がたっぷりある。
その隣には、ローテーブルとテレビボードが置かれていてどちらも木製のもの。
ひとつひとつのセンスがいいからか、スッキリとした印象に見えて、とても散らかっているとは思えない。どちらかといえば私の部屋のほうがお客さんを出迎えるには相応しくない。
「橘」
「は、はいっ!」
呼ばれてはっとする。人様のお家を厚かましくも観察してしまった。ジロジロ見ていたのは褒められたことではないだろう。
「嫌いなものはあるか」
「な、ないです。なんでも食べます」
「アレルギーは」
「ないです、なんでも」
食べますはさすがにしつこいかと区切ったところで、わかった、と簡素な返事が飛んできた。もしかしたらお茶やらお茶菓子を用意しようとしてくれているのかもしれない。
「あの、本当にお構いなくなので。お呼ばれした理由を聞かせていただければ」
「理由って、メシまだだろ」
「……メシ?」
ここに来てまさかのご飯のお誘いを受けていたことを知る。
「え、そんな悪いです。あ、じゃあ私がお金出しますので」
配達でもしてもらうのだとしたら、そこまで甘えるわけにはいかない。介抱までしてもらっておきながら食事まで面倒を見てもらうなんて図々しい。
「いや、あるもので作るから。逆に大したものは作れないけど」
「作るって……えっ、成川さんが作ってくれるんですか?」
そのまま対面キッチンに入った成川さんは、入念に手を洗い始める。
「橘はそこでゆっくり休んでればいい」
「そう言われましても……」
さすがにそれは会社の後輩としてどうなんだろうか。
その人にあろうことかご飯を作ってもらおうとしているなんて、これは一体何が起こっているのだろうか。
「……あの、本当にお言葉に甘えていいんですか?」
「さっきまで倒れそうになってた奴が甘えないでどうすんだよ」
それはごもっとも……なんだろうか。軽い貧血を起こしたぐらいで、そこまで心配してもらうのも申し訳なさすぎる。現に今は回復したわけで。