恋のレシピは、距離感ゼロで無口な先輩と
会社の規則ぎりぎりの明るさの髪色に、ふわりと揺れるフレアのあるスカート。
きっちりしすぎないその装いは、どこか抜け感がある。ここは制服がないから、あくまでも社会人らしい格好を求められるが、どう考えてもお洒落さが目立つような服装だ。彼女が動く度に少し強く残る香水は、以前注意したことはあったけれど改善されることはない。
新卒で入社したばかりの小林さんの指導係になって二か月。
何かとトラブルが多く、今の成川さんの案件も、元をたどれば彼女が作成したデータが要因だ。
「小林さん、あのデータは私がお願いしたタスクの中にはなかったと思うんだけど」
一応、研修期間になるので、彼女の仕事も私が振り分けている。だから私が知らないデータが出てくること自体がおかしな話だ。
「あ、それは営業部の前野さんにお願いされたんですよ。取引先の請求書を作成してほしいって言われて」
前野さんと言えば、若手の男性社員で、噂によると小林さんに気があるとかなんとか聞いたことがある。
そして小林さんも頼まれるとうれしくなるタイプなのか、おそらく「いいですよ」と簡単に引き受けてしまったのかもしれない。確かにそれは経理部の仕事にはなるけれど、あくまでも研修期間でもあるので、指導係の私に一声あってもいいはずだ。
基本的には作成した人間が誰か記録を残すためにも電子印鑑が採用されているが、小林さんの印鑑はまだ用意されていない。正式な社員となったタイミングで、という話だったこともあり、私の名前を使ったのだろう。
その結果、私が作成したことになり、ミスもまた、自動的に私が引き起こしたものになってしまった。
なぜ前野さんではなく成川さんが経理部に来たのかは不明だが、もしかすると前野さんが成川さんから頼まれたのかもしれない。
そして前野さんは一番声をかけやすそうで、なおかつ話すきっかけともなることをいいことに小林さんに頼んだ──という筋書きなのだと思うけど。
「はあ、あんなに怒られるなら頑張らなければよかったな」
自分が起こしたミスだというのに、小林さんに至ってはこの調子だ。
「……小林さん、今のはもう少し深刻に受け止めたほうがいいんじゃないかな。成川さんが気付かなかったら、間違った請求書を取引先に送ることになって大きな問題になってたと思うし」
やんわりと、出来るだけ声が尖らないように注意する。それでも気分を損ねてしまったようで、小林さんは口を尖らす。
「私も橘さんに確認してほしかったんですよ。でも昨日は橘さんも忙しそうだったのでチェックなしでもいいかなって」
そんなに声をかけにくいオーラでも出していただろうか。
日々追われるタスクは多いけれど、自分なりに話しかけやすい雰囲気を作り出せるように努力はしたつもりだった。
とはいえ、あくまでもそれは私の自己満足であって小林さんに声をかけてもらえなかったのならそれが結果になってしまう。
きっちりしすぎないその装いは、どこか抜け感がある。ここは制服がないから、あくまでも社会人らしい格好を求められるが、どう考えてもお洒落さが目立つような服装だ。彼女が動く度に少し強く残る香水は、以前注意したことはあったけれど改善されることはない。
新卒で入社したばかりの小林さんの指導係になって二か月。
何かとトラブルが多く、今の成川さんの案件も、元をたどれば彼女が作成したデータが要因だ。
「小林さん、あのデータは私がお願いしたタスクの中にはなかったと思うんだけど」
一応、研修期間になるので、彼女の仕事も私が振り分けている。だから私が知らないデータが出てくること自体がおかしな話だ。
「あ、それは営業部の前野さんにお願いされたんですよ。取引先の請求書を作成してほしいって言われて」
前野さんと言えば、若手の男性社員で、噂によると小林さんに気があるとかなんとか聞いたことがある。
そして小林さんも頼まれるとうれしくなるタイプなのか、おそらく「いいですよ」と簡単に引き受けてしまったのかもしれない。確かにそれは経理部の仕事にはなるけれど、あくまでも研修期間でもあるので、指導係の私に一声あってもいいはずだ。
基本的には作成した人間が誰か記録を残すためにも電子印鑑が採用されているが、小林さんの印鑑はまだ用意されていない。正式な社員となったタイミングで、という話だったこともあり、私の名前を使ったのだろう。
その結果、私が作成したことになり、ミスもまた、自動的に私が引き起こしたものになってしまった。
なぜ前野さんではなく成川さんが経理部に来たのかは不明だが、もしかすると前野さんが成川さんから頼まれたのかもしれない。
そして前野さんは一番声をかけやすそうで、なおかつ話すきっかけともなることをいいことに小林さんに頼んだ──という筋書きなのだと思うけど。
「はあ、あんなに怒られるなら頑張らなければよかったな」
自分が起こしたミスだというのに、小林さんに至ってはこの調子だ。
「……小林さん、今のはもう少し深刻に受け止めたほうがいいんじゃないかな。成川さんが気付かなかったら、間違った請求書を取引先に送ることになって大きな問題になってたと思うし」
やんわりと、出来るだけ声が尖らないように注意する。それでも気分を損ねてしまったようで、小林さんは口を尖らす。
「私も橘さんに確認してほしかったんですよ。でも昨日は橘さんも忙しそうだったのでチェックなしでもいいかなって」
そんなに声をかけにくいオーラでも出していただろうか。
日々追われるタスクは多いけれど、自分なりに話しかけやすい雰囲気を作り出せるように努力はしたつもりだった。
とはいえ、あくまでもそれは私の自己満足であって小林さんに声をかけてもらえなかったのならそれが結果になってしまう。