恋のレシピは、距離感ゼロで無口な先輩と
「いいの、それでビクビクして働きたくないって思ったから。会社の人間として、そこはちゃんと線引きしとかないといけないなって。クビになったら、また別のところで働くわ」
よろしくね、と七海さんはちらりと小林さんを見てから離れていった。
この怒りは小林さんを嫌うためのものではない。成長してほしいからという願いを込めて自分が悪役になった。
そんなことをしない七海さんだったのに、少し前からの一件で、考え方を改めてくれたのかもしれない。
「小林さん」
声をかけると、泣きはらした目で私を見上げる。
「橘さん……私、ミスで」
「うん、聞いた。七海さんに怒られたんだってね」
「あんなに怒られたの、初めてです……」
それもそうだ。社長の姪っ子だということで、誰も注意をできなかった。
私でさえ、彼女を気遣って働くことしか頭になかった。それでも今は違う。
「ミスをしてしまったら、誠心誠意対応するしかない。それから、二度と同じミスを繰り返さないために気を付けていくしかないと思う。泣いたら、今度は次を見る練習をする。それは、私がずっとやってきたことだから」
「橘さんが?」
「うん、私本当に仕事ができなかったから。もしかしたら小林さん以上にひどかったと思う」
信じられない、と小林さんがこぼして苦笑する。
「でも、そんな自分が嫌で、努力するしかないと思ったの。仕事のミスは、仕事でしか取り返せない。信頼してもらうためには、人一倍働かないとって。あ、だからって無理しろって言いたいわけじゃなくて。最初は、誰でも失敗する。それは当たり前だから」
そう、失敗は当たり前だ。失敗するということは、どういう形であれ、仕事をしているわけなのだから。
「大事なのは、次。立ち上がったときから、また仕事に取り組んでいくしかない」
ミスをされるぐらいなら、自分がしたほうがいいと思っていた。
注意したところで直らないだろうし、嫌われることも怖かった。
それでも、先輩として本当に大事だったのは、小林さんを信じるということだった。
「私もごめんね、小林さんのためにならないことばかり選んで」
「そ、そんなことないです。私はずっと、橘さんに甘えてばかりいたので……だから、頑張ります。私ができることを」
そうだね、と小林さんの背中をさする。がんばれ、そう言葉にしない代わりに。
七海さんにも声をかけたほうがいいよと声をかけてから、私は自分の仕事に取り掛かった。
私もまた、自分ができることを最大限にしよう。
少しだけ職場の空気が軽くなった気がして、私は自分のデスクに座った。
板挟みになっていることが苦しいと思っているし、これからも同じようなことは起こるかもしれない。
それでも、私なりにできることだけをするだけしかなくて、背伸びをして、自分らしくないことを続けても限界はくるものだと知った。
でも、そこに向き合い続けるためには、私にとって成川さんのご飯は必須だった。
あそこで力をもらえたから、私は今、ここにいることができる。
定時がくると、私は仕事を切り上げて、そのまま会社を出た。
目的のスーパーに行き、カゴにどんどんと詰めていく。ここに来るまであれこれと考えていたけれど、結局私ができるものはそんなに多くないことを知り、最低限のものを作ろうと思った。
よろしくね、と七海さんはちらりと小林さんを見てから離れていった。
この怒りは小林さんを嫌うためのものではない。成長してほしいからという願いを込めて自分が悪役になった。
そんなことをしない七海さんだったのに、少し前からの一件で、考え方を改めてくれたのかもしれない。
「小林さん」
声をかけると、泣きはらした目で私を見上げる。
「橘さん……私、ミスで」
「うん、聞いた。七海さんに怒られたんだってね」
「あんなに怒られたの、初めてです……」
それもそうだ。社長の姪っ子だということで、誰も注意をできなかった。
私でさえ、彼女を気遣って働くことしか頭になかった。それでも今は違う。
「ミスをしてしまったら、誠心誠意対応するしかない。それから、二度と同じミスを繰り返さないために気を付けていくしかないと思う。泣いたら、今度は次を見る練習をする。それは、私がずっとやってきたことだから」
「橘さんが?」
「うん、私本当に仕事ができなかったから。もしかしたら小林さん以上にひどかったと思う」
信じられない、と小林さんがこぼして苦笑する。
「でも、そんな自分が嫌で、努力するしかないと思ったの。仕事のミスは、仕事でしか取り返せない。信頼してもらうためには、人一倍働かないとって。あ、だからって無理しろって言いたいわけじゃなくて。最初は、誰でも失敗する。それは当たり前だから」
そう、失敗は当たり前だ。失敗するということは、どういう形であれ、仕事をしているわけなのだから。
「大事なのは、次。立ち上がったときから、また仕事に取り組んでいくしかない」
ミスをされるぐらいなら、自分がしたほうがいいと思っていた。
注意したところで直らないだろうし、嫌われることも怖かった。
それでも、先輩として本当に大事だったのは、小林さんを信じるということだった。
「私もごめんね、小林さんのためにならないことばかり選んで」
「そ、そんなことないです。私はずっと、橘さんに甘えてばかりいたので……だから、頑張ります。私ができることを」
そうだね、と小林さんの背中をさする。がんばれ、そう言葉にしない代わりに。
七海さんにも声をかけたほうがいいよと声をかけてから、私は自分の仕事に取り掛かった。
私もまた、自分ができることを最大限にしよう。
少しだけ職場の空気が軽くなった気がして、私は自分のデスクに座った。
板挟みになっていることが苦しいと思っているし、これからも同じようなことは起こるかもしれない。
それでも、私なりにできることだけをするだけしかなくて、背伸びをして、自分らしくないことを続けても限界はくるものだと知った。
でも、そこに向き合い続けるためには、私にとって成川さんのご飯は必須だった。
あそこで力をもらえたから、私は今、ここにいることができる。
定時がくると、私は仕事を切り上げて、そのまま会社を出た。
目的のスーパーに行き、カゴにどんどんと詰めていく。ここに来るまであれこれと考えていたけれど、結局私ができるものはそんなに多くないことを知り、最低限のものを作ろうと思った。