天才画家に描かれて、毎晩とろけそうです ―スイートルームで始まる、芸術と恋の独占契約
レオンのくちびるが、そっと離れる。

けれど咲良は、ただじっと、その顔を見つめていた。

青い瞳は、まるで夜空にぽつんと浮かぶ一等星のようだった。
強くて、揺るぎなくて、でもどこか寂しそうで。

(どうして……そんな目をするんだろ)

胸の奥がきゅっとなる。
感情の名前はまだわからない。

好き……なのかもしれない。
でも、確信するにはまだこわくて。
ただこの人のまなざしから、目をそらせなかった。

レオンが、そっと咲良の肩に手を添える。
引き寄せられるように、ふたりの額が触れた。

「……咲良」

名前を呼ばれただけで、背中をなぞられるように熱が走る。

レオンの手がそっと背中をなぞる。
ぎゅっと抱きしめられる。

そのまま、ふたりの身体は自然と傾いて──
ソファからなだれ込むように、ベッドへ。

咲良は少しだけ身をこわばらせた。

でも、レオンはすぐにその様子に気づいたように、
髪をそっと撫で、囁くようにキスをした。

「大丈夫。……描くときと同じ。君の線をなぞるだけ」

レオンの声は、低く、どこまでも穏やかだった。

まるで筆先で語りかけるような、その響きに、咲良の心はそっと緩んでいく。

レオンの右手が、咲良の髪をそっとかき上げる。

頬に触れ、首筋をなぞり、鎖骨を指先で感じとる。

そのすべてが、咲良の存在を慈しむように、ゆっくりと、やさしく──まるで繊細な絵を描くようだった。

「きみは、美しすぎて、見とれてしまう……光の中の彫刻みたいだ」

ふっと囁かれたその言葉に、咲良は照れくさく笑って、小さく首を振る。

けれど胸の奥では、あたたかな波紋が広がっていた。

レオンの唇が、咲良のまぶたに、頬に、唇にそっと触れる。

それはまるで、筆がキャンバスをなぞるように、静かで、確かなキスだった。

柔らかなベッドに背を預けながら、咲良は自分の中に芽生えていた気持ちの正体を感じていた。

──この人のそばにいたい。
ただそれだけで、身体の力がほどけていく。

「咲良……僕のミューズ」

そう呟くレオンの眼差しには、欲望ではなく、深い愛情と尊敬が宿っていた。

ひとつひとつの所作に、嘘ひとつない本気の想いが込められていると、咲良にはわかった。

(この人になら……委ねても、いい)

ふたりの距離は、言葉よりも静かに、確かに近づいていく。

くちづけの合間に聞こえるのは、互いの呼吸だけ。
贅沢な沈黙のなかで、肌と肌が触れ合い、心と心が溶け合っていく。

昼の光に満たされたスイートルームで、
レオンは咲良をひとつの芸術作品のように、何度も、何度でも、大切に愛した。

絵を描くときと同じように。
焦らず、急がず、ただそこに「彼女がいる奇跡」を確かめるように。

そして咲良もまた、彼の胸に身を預けながら、そっと微笑んだ。
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