天才画家に描かれて、毎晩とろけそうです ―スイートルームで始まる、芸術と恋の独占契約
「また描くね」

あの日、レオンはそう言っていた。
左腕が治った夜、スイートルームの扉が閉じる間際に、優しく微笑みながら。

でも、その日から──一度も、呼ばれていない。

スマホの通知は鳴らなくなり、メッセージを送っても「ごめん、ちょっと忙しくて」と短く返ってくるだけ。

(変わったのは、私じゃなくて……レオンのほう)

咲良はスマホを握りしめたまま、道場の休憩室でひとり、じっと天井を見上げていた。

(でも、それが自然なのかもしれない)

レオンの怪我は治った。
もう、モデルは必要ない。
もともと、そういう約束だった。

そう自分に言い聞かせながらも、心はざわついていた。

「毎晩のように描かれていた」あの時間は、たしかにそこにあったのに。

あの視線も、あの手も、あの温もりも。
今では何ひとつ、届かなくなってしまった。

(私は、あの時間に甘えてたんだ)

モデルとして。
助手として。
そして……少しだけ、特別な存在だと、信じたかった。

けれど今となっては、それすら幻想だったのかと疑ってしまう。

ネックレスを指でつまんで、そっと握りしめた。
ピンクダイヤの硬い輪郭が、冷たく指先にのしかかる。

(呼ばれない、という事実が答えなら……)

その先は、考えたくなかった。
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