天才画家に描かれて、毎晩とろけそうです ―スイートルームで始まる、芸術と恋の独占契約
土曜の午後。
道場の掃除を終えたあと、咲良はひとりで畳の上に座っていた。

静かな室内。
窓から差し込む春の日差しが、まるで過去の残像みたいに淡く広がっている。

スマホには、既読のつかないトーク画面がそのまま残っていた。

「今夜、少しだけ顔を見られたら嬉しいです」

送ったのは、三日前。
返事はない。

通知の音が鳴るたびに胸が跳ねる。
でも、それがレオンじゃないとわかるたびに、すぐ落ち着く。

(……こんなの、バカみたい)

膝の上に置いたスマホを裏返す。

「もう終わったのかもしれない」

ぽつりと、咲良は口にした。

誰にでもなく、自分自身に。

レオンが左腕を回復させたときから、予感はしていた。

必要とされる時間の終わりが、そこまで来ていたことを。

──それでも、あの昼の出来事が嘘だったとは思いたくなかった。

あの目も、あの声も、
咲良の肌に残った熱も。

レオンは、咲良をモデルとして見ていたのか、
それとも愛する人として抱いてくれたのか。
答えがないまま、時間だけが過ぎていく。

(考えたって意味ない。……気にしないほうが、楽なのに)

何度もそう思う。
でも、何度思っても、胸の奥に広がる空白は消えなかった。
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