天才画家に描かれて、毎晩とろけそうです ―スイートルームで始まる、芸術と恋の独占契約
「──会いたいの」
送信ボタンを押したあと、咲良はスマホをテーブルに置いた。
一瞬で心臓が跳ね、すぐに静まり返る。
返事は、しばらくなかった。
でも1時間後、短く届いたメッセージ。
『いいよ。今夜、待ってる』
それだけで、なぜか涙が出そうになった。
*
夜、スイートルームの前。
いつもと同じはずの扉が、やけに重たく見えた。
咲良は手のひらに汗をにじませながら、ノックする。
ドアが開く。
レオンがそこにいた。
金の髪。整った顔立ち。
いつもと変わらぬやさしい微笑み。
でも、どこか──目の奥が静かだった。
「咲良。来てくれてありがとう」
咲良は、何も言わずにうなずいた。
部屋に入ると、あのキャンバスは片隅に立てかけられていた。
もう描かれることのないまま、白いまま。
「元気だった?」
「うん。……そっちは?」
「まあまあ、かな」
取り繕うような会話が、妙にぎこちない。
咲良は、意を決して切り出す。
「……モデル、もう必要ないんだよね」
レオンの表情がすこしだけ陰る。
けれど、否定はされなかった。
「左手が治ったから。自分ひとりでも描けるようになった。
だから……もう、大丈夫」
その優しさが、いちばん痛かった。
咲良は笑おうとしたけれど、うまくいかなかった。
「……そうだよね。わたし、あくまで“お詫び”で来てただけだもんね」
レオンの目が揺れる。
「ちがう。咲良、君は──」
言いかけて、言葉が途切れる。
でも、その先を咲良はもう求めなかった。
「大丈夫。私も……ちゃんと終わらせたくて来ただけだから」
ふたりの間に、少し長い沈黙が落ちた。
それは、描きかけた絵を破り捨てる代わりに、
そっと机の引き出しにしまうような、静かな終わり方だった。
送信ボタンを押したあと、咲良はスマホをテーブルに置いた。
一瞬で心臓が跳ね、すぐに静まり返る。
返事は、しばらくなかった。
でも1時間後、短く届いたメッセージ。
『いいよ。今夜、待ってる』
それだけで、なぜか涙が出そうになった。
*
夜、スイートルームの前。
いつもと同じはずの扉が、やけに重たく見えた。
咲良は手のひらに汗をにじませながら、ノックする。
ドアが開く。
レオンがそこにいた。
金の髪。整った顔立ち。
いつもと変わらぬやさしい微笑み。
でも、どこか──目の奥が静かだった。
「咲良。来てくれてありがとう」
咲良は、何も言わずにうなずいた。
部屋に入ると、あのキャンバスは片隅に立てかけられていた。
もう描かれることのないまま、白いまま。
「元気だった?」
「うん。……そっちは?」
「まあまあ、かな」
取り繕うような会話が、妙にぎこちない。
咲良は、意を決して切り出す。
「……モデル、もう必要ないんだよね」
レオンの表情がすこしだけ陰る。
けれど、否定はされなかった。
「左手が治ったから。自分ひとりでも描けるようになった。
だから……もう、大丈夫」
その優しさが、いちばん痛かった。
咲良は笑おうとしたけれど、うまくいかなかった。
「……そうだよね。わたし、あくまで“お詫び”で来てただけだもんね」
レオンの目が揺れる。
「ちがう。咲良、君は──」
言いかけて、言葉が途切れる。
でも、その先を咲良はもう求めなかった。
「大丈夫。私も……ちゃんと終わらせたくて来ただけだから」
ふたりの間に、少し長い沈黙が落ちた。
それは、描きかけた絵を破り捨てる代わりに、
そっと机の引き出しにしまうような、静かな終わり方だった。