天才画家に描かれて、毎晩とろけそうです ―スイートルームで始まる、芸術と恋の独占契約
次の日の朝、咲良はニュースサイトをぼんやりと眺めていた。

手元のスマホには、既読のつかないメッセージがいくつか残っている。

「無事に帰れた?」
「気をつけてね」
「ほんとは、もっと話したかった」

どれも、短くて、あいまいで、決定的じゃない。
でも、どの言葉にも「さよなら」が滲んでいた。

──そして今、
咲良の目の前にあるのは、たったひとつの現実だった。

【L(エル)氏、パリへ帰国】
【次なる新作の舞台はフランスか――ストリートアート界の天才、沈黙を破る】

名前は出ていない。
顔も写っていない。
でも、記事のなかに添えられた一枚の写真。

──空港のラウンジ。
──手にはスケッチブック。
──くるくるとした金の髪。

(やっぱり、レオンだ)

もう、いないんだ。

日本にも、この街にも、スイートルームにも。

咲良はその場に膝を抱えて座り込み、スマホを抱いたまま、じっと目を閉じた。

(私、ちゃんと……「好き」だったんだな)

やっと、その言葉が胸に落ちてきた。

遅すぎた自覚。
間に合わなかった想い。

でも、それを悔やむよりも先に、ただ涙が溢れてきた。

静かに、あたたかく、音もなく。

──もう描かれないとしても、
この感情だけは、心のなかに絵として残りつづける気がした。
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