天才画家に描かれて、毎晩とろけそうです ―スイートルームで始まる、芸術と恋の独占契約
咲良は、壁に描かれた絵の前に立ち尽くしていた。

どれだけ見つめても、視線を外せなかった。
この絵が、自分であるという確信は揺るがなかった。

──でも、レオンはここにはいない。

誰もいない夜の路地裏。
風がすこし冷たくなってきた。

(これだけでも、もう十分なはずなのに……)

それでも、どこかで心が言い訳を探していた。
「あの人がまだ、私を覚えていてくれる証拠」を。

咲良は、指が震えるのを感じながらスマホを取り出した。
開いたのは、レオンのSNS。

投稿履歴を下へスクロールすると──
つい、数時間前の新しい投稿が目に入った。

それは、今まさに目の前にある壁画の写真。

構図も、色彩も、そのまま。
そして、たった一行だけ添えられたキャプション。

「Title : I love you」

その言葉を見た瞬間、
息が、止まりそうになった。

何度も読み返す。
でも、どれだけ見ても、文字は変わらない。

“Thank you”でも、“Goodbye”でもなく。
それは、たった三語の、真っ直ぐな想いだった。

胸の奥に、静かに熱いものが溢れてくる。

頬に触れる風が、涙の粒をそっと運んでいく。

咲良はスマホを抱きしめたまま、
声も出さず、ただその場に立ち尽くした。

(──描かれた、じゃない。愛されたんだ)

その確信が、心の奥深くまでしみこんでいく。
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