天才画家に描かれて、毎晩とろけそうです ―スイートルームで始まる、芸術と恋の独占契約
咲良とレオンの視線が交差した瞬間、
どちらからも言葉は出なかった。

雨が降りつづけていた。
ふたりの間に、濡れた石畳のリズムだけが流れていた。

レオンは、まるで幻を見ているように咲良を見つめていた。
眉が震え、唇がわずかに開いたまま、何かを探すように瞬きを繰り返す。

「……咲良」

咲良は、そっとうなずいた。

レオンの青い瞳に、雨とは違う光がにじんでいるのが見えた。

「……君に、もう会えないと思ってた。
 いや……君に会う資格なんて、僕にはないって思ってた」

その言葉の奥に、罪悪感と後悔が滲んでいた。

レオンは顔をゆがめた。
そして、ぽろりと涙が頬を伝った。

「君を愛したはずなのに、君を遠ざけて、傷つけた。僕は……」

もう言葉にならなかった。

咲良は、傘を持つ手をおろしていた。
雨が髪に落ち、肩を濡らしていたけれど、それよりも心の奥がいっぱいだった。

「……私のほうこそ、もっとちゃんと伝えたかったよ」

声がふるえる。

「……会いたかった。ずっと。
 描かれなくてもいいから、そばにいたかったのに……」

そのまま、ふたりの間に沈黙が落ちる。

けれど、その沈黙はもう、寂しさではなかった。

レオンは、涙をぬぐおうともしなかった。

咲良も、静かに泣いていた。

雨の中、ふたりの輪郭が滲んでいた。
けれどその心だけは、もう迷わず、相手の中にあった。
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