天才画家に描かれて、毎晩とろけそうです ―スイートルームで始まる、芸術と恋の独占契約
「……一晩だけ、だよ」

そう言ってしまった瞬間、全身が熱くなった。

スイートルームの照明は、天井から降りそそぐようなやわらかい光。
咲良はバスルームで着替えを渡され、手元の下着とバスローブを見つめたまま、しばらく動けなかった。

(なにやってんだろ……)

だけど、あのとき言ってしまった。
「なんでもするから」って。
彼の腕は、確かに自分のせいで折れてしまった。

──責任を、取らなきゃ。

意を決してバスローブを羽織り、静かに部屋へ戻る。

カーテン越しに夜景がにじむ室内。
窓辺に立つレオンが、振り返って言った。

「準備、できた?」

咲良は、こくりと小さくうなずく。

そして、ためらいながらバスローブの紐をほどいた。

静かに落ちる衣の音。
空気が肌に触れた瞬間、体温が跳ねた。

下着だけの姿。
誰かに、こんなふうに「見られる」のは初めてだった。

怖かった。恥ずかしかった。
でも、レオンの視線は──ただ、静かだった。

じっと見つめる目は、いやらしさがないのに、あまりに真剣で。

「……美しい」

ぽつりと漏れたそのひとことに、胸がきゅう、と鳴った。

「筋肉がある身体なのに、『美しい』なんて……」

思わずつぶやいた咲良に、レオンが眉をひそめる。

「筋肉があるから、美しいんだ。彫刻のようで、気品がある。……なのに、誰かに否定されたことがあるの?」

「……元カレに、怖いって言われたことある。抱きしめる気になれないって……」

ぽろりと出た言葉に、レオンは顔を曇らせた。

そして、ゆっくりと首を振る。

「そんなことあるはずがない。君は美しい。見るたびに、描きたくなる」

そのまなざしが、咲良の輪郭をなぞるように熱を帯びて。

──この人は、本気で言ってるんだ。

それが、心の奥にじんわりと広がっていった。
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